「キナリ、手紙だよ。プキサからだ」
と船旅から帰ったばかりの船長が封書を差し出した。
長い名の絵かきは、異国へスケッチ旅行に出掛けている。
「あれ? 外国語だ……船長読んで」よし、と船長が読みはじめる。
「親愛なるエクルへ。ナンナルやチョット・バカリーは元気かい? こちらは寒い日が続いています。ヌバタマが喜びそうなおいしいミルクを毎晩温めて飲んでいます。――今日描いた小品を同封します。今暮らしている部屋から見た風景だよ。満月の晩に。プキサより」
少女は尋ねる。
「エクル? キナリに来た手紙じゃないの?」
「もちろんプキサがキナリに書いた手紙だよ。エクルはフランス語でキナリという意味だ」
「エ、ク、ル……エクル……」
少女はその名前が「キナリ」の次に気に入った。
「ねぇ、ナンナル。エクルって呼んでみて」
月は、ひどく照れた。
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