2004年9月16日木曜日

帽子たちの行方

祖母は二十四時間帽子を被っていた。
朝起きるとすぐに、たくさんの帽子の中からひとつを選び、頭に載せる。
風呂に入る時は気分に合わせたシャワーキャップを、寝る時は寝巻に合わせたナイトキャップを。
いつだか夜中に、ずり落ちそうになったナイトキャップをイビキをかきながらしっかり直すのを見た時には、驚きを通り越して呆れたものだ。
そんな祖母が死ぬと後には大量の帽子が残った。
本当に膨大な数で、どのように処分してよいか、途方に暮れた。
 ある日「帽子商」と名乗る男が訪ねて来て、祖母の帽子を引き取りたいと言ってきた。
「おばあさまの意志を尊重し、一番相応しい人に帽子を受け継いで頂くのです」
暗い感じの男で、信用したわけではなかったが、困っていたので、了承した。
 以来、毎日帽子の写真のついたカードが届く。
祖母とよく似た筆跡で帽子の由来や思い出、新しい持ち主の紹介が書かれている。
祖母の帽子は軽く千を越えていた。
あと三年は毎日カードが届くのだろう。