2004年9月15日水曜日

画学生のいた日

ベレー帽を被った髪の長い女の人が公園に来るようになったのはいつのことだっただろうか。
その人はサッカーをしている僕たちのすぐ傍にしゃがみこんでスケッチをしていた。
遊んでる僕たちとその人とは、とても近いのに違う時間の中にいるようだった。
僕はスケッチをしている人もベレー帽を被っている人も見たことがなかったから、その女の人が特別なのか、ベレー帽を被りスケッチする人が皆そんなふうなのか、わからなかった。
母さんにその人の話をすると「きっと画学生ね。あんたたち、からかったり邪魔してないでしょうね」と睨まれた。
ガガクセイ。初めて聞く言葉だった。
 僕は中学生になり、公園でサッカーはしなくなった。ベレー帽を被った女の人も見掛けることはなくなった。
時々、夜中の公園に一人で行き、彼女がスケッチしていた場所に座ってみる。
何が残っているわけではないけれど。