「こんにちは、フジオさん」
「はい、こんにちは」
喜寿をだいぶ昔に迎えたフジオさん、帽子を脱いで深々とお辞儀をする。
禿頭のフジオさん、還暦のお祝いにもらった毛糸の帽子がいたくお気に入りで一年中かぶっている。
「おはようございます、フジオさん」
「はい、おはよう」
米寿を迎えたフジオさん、相変わらず毛糸の帽子をかぶってる。毎日二十回も挨拶して、その度に禿頭を披露するものだから帽子はボロボロ。
「いらっしゃい、フジオさん」
「どうもどうも、はじめまして。おしゃかさま」
あちらに行ったフジオさんの頭に毛糸の帽子はないけれど、やっぱり深々とお辞儀をする。