私はシルクハットをテレビの中でマジシャンが持っているのしか見たことがなかった。
たぶんそれは私だけではないと思う。
シルクハットを被った人を見たのは、学校からの帰りだった。
シルクハット氏はジーンズにTシャツという、恐ろしくシルクハットの似合わない格好で、シルクハットをかぶっていた。
私はちょっと身構えた。相当、いや、絶対に、変わり者に違いない。声など掛けられたくない。
私はシルクハット氏の視界に入らないように、氏の真後ろを静かに歩いた。
気付かれないようにするのに夢中になりすぎて、いつのまにか家を通り越していた。
「ねえ?きみ、いつまでぼくの後をつけるつもり?」くるりと振り返ったシルクハット氏は思いの外、若かった。
全く想像していなかったことに、とてもカッコよかった。
私の胸はキュンとなった。
シルクハットは消えた。