懸恋-keren-
超短編
2004年9月10日金曜日
鼻
「これ、やるよ。もういらないから」
ポケットから出てきたのはすみれ色の鼻だった。
「いらないよ。持ってるもん」
ポケットから黄色い鼻を出して見せる。
「そっか…」
なんだか腑に落ちない顔をしている。
「持ってればいいじゃん。今はちょっとじゃまっけかもしれないけどさ。捨てることないよ」
そうだ、それは一度捨てたらそれきりなのだ。
「いつかまた、大切になるのかな…」
「うん。ほら、鼻水垂れてるよ。早くしまいな」
すみれ色の鼻はグッとポケットに押し込まれた。
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