秋祭りに誘われ、友人の故郷を訪れた。収穫後の田んぼの上を巨大な杉玉が宙を漂っている。杉玉からは白っぽい粉が撒き散らされ、装束姿の人々が長い竹棒を田んぼに突き刺しながら走り回る。「灰とか肥料を杉玉にまぶしてあるんだ」と友人の解説。田の土が灰で白いうちに雪が積もれば来年も酒がうまい。(140字)
2024年10月11日金曜日
2024年10月10日木曜日
秋の星々140字小説コンテスト「長」未投稿作
十八歳の誕生日の二週間後、私はひとり夜行列車に乗っていた。窓の外を流れる夜をぼんやり眺めながら、朝までこうしているのも悪くないな、と思った。線路も夜も、人生も、ずっと長く続くような気がしていた。あの時乗ったブルートレインはもうないが、揺れながら過ごした夜のことを最近よく思い出す。(140字)
2024年8月14日水曜日
「風」(2020年10月、月々の星々のテーマ)
祖父母の家では雄鶏を飼っていた。なんとなく平べったい印象で、よく空を眺めたりなんかしていて、うまく言えないけど、あまり鶏らしくなかった。祖父は「あれは風を読むのがうまいんだ」と目を細めて言っていた。元々は祖母の生家の屋根に付いていた風見鶏だと知ったのは、祖父母亡き後のことである。(140字)
2024年8月11日日曜日
「月」(2020年9月、月々の星々のテーマ)
驢馬に乗って歩くと詩が出来るらしい。昔の中国の詩人がそう言っていた。まずは驢馬と知り合うため鶏に伝手を訊ね、牛と山羊に話を聞き、やっと驢馬と知り合いになれた。「一緒に詩を作らないか?」と月明かりの下、驢馬を口説く。「構わんが、推敲はやりたくないね」いよいよ驢馬と吟行に出かけるぞ。(140字)
2024年8月7日水曜日
「影」(2020年8月、月々の星々のテーマ)
どんより薄曇りの日が長く続いているせいで、影と暫く会っていない。もちろん月明かりでも蛍光灯でも影は生じるわけだが、光源によって性質が異なるようで、蛍光灯の影などは頗る愛想が悪い。太陽光による影だけが我が友だ。うららかな陽気の中を影と語らいながら、ひとり散歩を楽しみたいものである。(140字)
2024年8月5日月曜日
「海」(2020年7月、月々の星々のテーマ)
祖父の遺した古いノートは航海日誌だということがやっとわかった。船の揺れのせいか、ただでさえ癖の強い文字はひどく乱れ、気象用語と思しき単語が踊っている。祖父が船乗りだったとは俄には信じ難い。僕は一度も海を見たことがない。3.4%の塩水を作ってみたが、塩水の味か涙の味か、よくわからない。(140字)
2024年8月1日木曜日
夏の星々140字小説コンテスト 「高」未投稿作
毎朝、木に登る。私が誕生したその日に父が庭に植えた木だ。枝に腰掛けて町を眺めるのが日課だ。私の身長はとっくに成長を止めたが、木は今も伸び続けている。眼下の町が少しずつ小さくなる。夜明け前から登り始めないと枝に辿り着けなくなってきた。朝焼けに目を細める。ずいぶん高くまで来たものだ。(140字)