2003年3月18日火曜日

屋根に上って夜陰に溶け込む。
ヤカンに茶を入れて、月明かりに浮かぶ向かいの山を眺める。
あの山には八百屋をやっているヤマンバがいる。
ボクは夜行列車に乗って山を降りると薬局によって薬を買ってヤマンバに届ける。
するとヤマンバはたくさんの野菜をくれるんだ。
ヤマンバの娘は柳腰の美人で、これはボクの彼女ね。
柔肌で山吹色の着物がよく似合うんだ。
ボクの山小屋で夜半過ぎまでふたりで休んでいるとやっぱりヤマンバに
怒られちまって自棄酒飲むと彼女にも怒られてサ……。
実はややが生まれたんだ。
やんちゃな山男になりそうだんだ。

2003年3月16日日曜日

もう森には入らないと申し出を受けたときには、やはりショックだった。
猛虎のようなじいさんにも耄碌する日が来ると頭ではわかっていたのに。

じいさんは猛勇なだけでなく、魑魅を手懐け魍魎とよく話をした。
森守としての才能をすべてもっていた。そしてそれは彼しか持っていないのだ。
もはやこれまでだ。
じいさんは黙々と最後の仕事の準備をする。
最後の守が最後の森を、燃やす時がきた。
燃え上がる、朦朧とする、

2003年3月15日土曜日

明月の晩、冥土への旅が始まった。
こころは誠に明澄である。明鏡止水とはよく言ったものだ。
とりあえずは冥王星を目指せばよい
と死の瞬間に名僧が囁いたので、星々を愛でながらいこう。
ところが冥王星にはあっという間に到着してしまった。
目下迷霧の中である。
目星はない。明答は、瞑想によってのみ得られるのだろう。
生前の面倒をひとつづつ滅却していかなければならぬ。
名実ともに冥界人になるには、しばらくかかりそうだ。

2003年3月14日金曜日

無意識のうちに難しいことをあれこれ考え始めることがよくあって
どうにかならないかと思っていた。
まもなく、無理に考えまいとすれば、容易にできることに気付いた。
それは無意識ではないからだ。
私は無意識を意識するあまり、無我夢中状態と夢遊病状態の繰り返しの生活になった。
いつでもむっつりしているかむにゃむにゃしているかのどちらかである。
結局は、「無意識」という難しいことを我を忘れて考え続けていたのだ。
むちゃくちゃである。

2003年3月12日水曜日

そんなに見つめられると身動きできないわ。
いつでも身綺麗にして、髪は三つ編み、ミニスカートは穿かなかったの。
操を守るためよ。

水仕事で荒れた手を撫でてくれるのね。
耳元で淫らなことを囁くのはよして。
こんなに乱れたらみっともないわ。どうしましょう。

魔王は参っていた。迷子になったのだ。
まったく魔界の町は曲がりくねっていて
たびたび小道に紛れ込んでしまうのだが、今回はもう三日も迷ったままなのだ。
魔王が行方不明で今頃騒ぎになっているだろう。
負けず嫌いの魔王が迷子だとは間違っても言えない。
焦るばかりで魔術も効かず、ついに目を回して倒れてしまった。

翌日、町の人が発見したのは一体のマヌカンだった。
摩可不思議、幻の魔王のお話。

2003年3月11日火曜日

望郷の念にかられた北極星は芒洋な宇宙を彷徨し始めた。
驚いたのは船の帆を揚げていた水夫である。
彼らは呆然となり、天の神に宝物を納め奉拝した。

北極星は吠えた。芒芒たる宇宙にむかい母星を求めて。
彼は誇りを持っていた。
人々の指針として感謝される星は他にいないという自負である。
しかし、本拠の方角も分からなくなった今、誇りは崩壊した。
ぽつんと佇んでいただけの日々は程遠くなってしまった。
このままぼんやりと星屑になる日を待とう。

翌日、水夫たちはほっとした。北極星はいつものように輝いている。