夕焼けが赤過ぎたのをよく憶えている。 かくれんぼの余韻が残っていた。きょろきょろとあたりを見廻し「あそこはかくれるのにちょうどよさそうだ」などと思いながら帰り道を急いでいた。
そうして歩いているときに、空き地に穴を見つけたのだ。そこはよく遊ぶ空き地の一つで、どこにどんな草が生えているかまで知っている。そんな勝手知ったる遊び場に、大きな穴があったことに、僕は少なからず驚き、悔しさに似た感情が湧いた。
穴はかくれるのに十分な大きさがある。そして、中に向けて小便でもしたくなるような穴だった。そう思ったら急に強い尿意が襲ってきた。
「中に入るなら、ションベンする前だ」
股間を押さえながら穴の中にしゃがみ込む。ひんやりとして寒い。「漏れる!」慌てて立ち上がろうとしたが、動けない。小さなじいさんが、シャツを引っぱっているのだ。
「だれ?」
「おまいらのおとっつあんやおっかさんがガキん頃は、隠し坊主、なんて呼んでたな。おまいのおっかさん、血相変えておまいを探してら」
見上げると、赤い空は消えていた。
「じゃあ、帰らなくちゃ。それに、ションベン漏れそうだ。離して」
「駄目駄目。この坊主とジャンケンで勝ったら、穴から出してやら」
二十三回までは数えたけれど、その後はわからない。ようやくパーで勝って、ホッとしたら、盛大に小便を漏らした。
ズボンを濡らして、空き地でぼんやり突っ立っているのを、隣のおじさんが見つけてくれたのは、夜の九時を過ぎていたそうだ。
「この空き地も、何遍も見に来たのだがねえ」と、大人たちが不思議そうに言っていたが、隠し坊主の事は言えなかった。
ビーケーワン怪談投稿作