靴底越しに感ずるトカゲの尻尾がやけに生々しい。尻尾を失くしたトカゲは一瞬恨めしそうにこちらを見上げ、しゅるしゅると植え込みの中に消えて行った。少し考えて、千切れた尻尾は持ち帰ることにした。
尻尾は干からびることもなく、机の上に居る。時折ひゅるりと動くような気配があるが、たぶん目の錯覚だろう。
ヤモリがよく来るようになった。窓に貼り付いている。はじめは一匹、二匹だったのが、いつのまにか増え、夥しい数のヤモリが毎晩、規則正しく並んで窓に貼り付く。流石に気味が悪い。しかし、ヤモリは家守、縁起は悪くないはずだ。
とうとうトカゲがやってきて「尻尾を返して欲しい」と訴えた。
「もう新しい尻尾が生えているではないか」
「それとこれとは性質の異なる尻尾でして」云々かんぬん。
「それに、貴方もお困りでしょうから」トカゲは窓を見遣る。
「ヤモリのことか。ヤモリぐらいどうってことはない。噛まれるわけでもなし」
「ヤモリ? わたしはトカゲですが」
要領を得ない。ともかく尻尾は返した。その晩からヤモリは来なくなった。
休日、ヤモリの跡が残る窓を拭こうとして気が付いた。ヤモリだと思っていたものは、人の手だったようだ。道理でトカゲと話が通じない。
ビーケーワン怪談投稿作