扉が閉まる寸前、電車に飛び乗った男の子は、だれともなく「ごめんなさい」と頭を下げると、虫取り網を振り回し始めた。
おやおや、虫取りが楽しみで仕方ないのだなと思って見ていたが、どうも様子が違う。
彼は車内で本当に、虫を集めているのだった。
彼の網や、小さな指に捕らえられている間は私には何も見えなかったが、虫籠に放たれた途端に姿を現した。毛虫だ。ドドメ色した目玉だらけの毛虫。
それを男の子は涼しい顔で次々と捕まえているらしい。
「ヨシ、きれいになったぞ」
と独り言を言って、男の子は次の車両へ移って行った。ともかくこの車両にあの毛虫はいなくなったらしい。有難いことだ。