「老ゼルコバ、二人は同じ街へ行けるの?」
オニサルビアの君が訊く。
「それは、誰にもわからない」
老ゼルコバは言った。
「さあ、そろそろ出発の時ですよ」
それが老ゼルコバの最期の時でもあると、オニサルビアの君は気が付いているだろうか。表情を窺ってみるが、気が付いていないように思えた。オニサルビアの君は、初めての転移で頭がいっぱいなのだ。
ケヤキの巨木も、肩の小さなケヤキも、見る見るうちに白っぽくなっている。そのまま灰になって崩れてしまいそうな色に。
「老ゼルコバ……」
なんと声を掛けていいのかわからず、言葉が続かない。老ゼルコバは「わかっている。黙っていなさい」と、オニサルビアにわからないくらいの小さな頷きと目配せで答えた。
さっき出会ったばかりの老ゼルコバだが、哀しみが溢れる。
我々の転移を手伝うことで命を終えることになる。寿命なのだろう。「役目」とも、老ゼルコバは言った。
でも、他人の命を奪うことのようにも思えて恐ろしくもあった。どう受け入れればよいのか、どう解釈すればよいのか、わからない。
「わからないままでよいのです」
老ゼルコバが、耳打ちするように言った。