2019年4月11日木曜日

低い声

オニサルビアの君と手を取り合って、外に出た。
「消えず見えずインクの旅券を持つ者、二名あり! この者共を然るべき儀式で送る者はおらぬか!」
青い鳥がよく通る低い声で言う。オニサルビアが香る。

「佳い花を、佳い鳥を」
と、挨拶してくれる人は時々あったが、鳥の呼び掛けに応える人はなかなか現れない。やはり二人というのは、難しいのかもしれない。

「消えず見えずインクの、旅券を持つ者、二名あり……この者共を然るべき儀式で送る者は、おらぬか」
さすがの青い鳥にも疲労の色が見えてきた。声に張りがなくなってきた。オニサルビアの君も、長い時間緊張したままだったせいで、相当疲れている。
「一度、家に戻りましょうか」
そう囁いたところだった。

「付いて来てください」
背後から声を掛けられた。青い鳥よりも更に低い声だった。