犬は悩んでいる。ありったけの語彙を使い、悩みを説明しているのだが、なぜだろう、口から出てくるのは犬の吠える音だけ。
深い孤独と、それについての考察を述べているというのに、これでは誰もわかっちゃくれない。あれやこれやと吠えてみるが、思考ばかりがどんどん進み、犬は混乱を極める。
高尚に悩んでいるとも知らず、猫がやってきて、話しかけてくる。猫の話はいつだって、まとまりなく、とりとめもなく、そして話し終わらぬうちに去っていく。
犬と犬の吠え声と犬の思考は乖離して、犬小屋に居ぬか、何処にも居ぬか。
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「サウンド超短編」投稿作
最優秀賞・峯岸可弥賞・タカスギシンタロ賞受賞
2019.4.6 超短編20周年記念イベント——広場・心臓・マッチ箱——にて、シライシケンさんの演奏に合わせ、朗読していただきました。