料理が得意な友人の家に招待された。小料理屋にでもいるような気分で、寛いで飲み食いし、話にも花が咲く。
「ところで、こんな料理、どこで覚えたんだ?」
けんちん蒸しがちょこんと入ったお吸い物を啜りながら、友人に訊いてみた。口の中でふんわりとけんちん蒸しが崩れる。絶品だ。
「信じられないだろうけれど……」と友人は切り出した。彼は料理教室に通ったことがあるわけでもなく、料理上手な家族から手ほどきを受けたわけでもないという。
「この家に暮らし始めてから、突然料理ができるようになったんだ」
少々古いが、なかなか心地のいい家である。中古で買ったというこの家に、料理が得意なオバケの類がいるのではないかと彼は大真面目な顔で言うのだった。
「たとえば実家の台所に立っても何もできない。これはもう、この家の仕業としか思えない」
このけんちん蒸しは、特に得意らしい。「いつのまにか、たくさん出来ていた」からと、おかわりを勧められる。遠慮無く椀を差し出すと、友人の顔が一瞬嬉しそうに微笑む女に見えた。