2013年8月22日木曜日

ミネストローネパスタ入り

 木製のお椀を両手で包むように持ったまま、動こうとしない人がいる。中に何が入っているのだろうと、そっと覗いてみれば、スープだ。ミネストローネ。パスタも入っている。温かそうな湯気が立っている。ここが真冬の駅の改札口でなければ、もっと美味しそうに思うだろう。
 待ち人をしている私の少し離れた横に居て、その人もやっぱりじっと立って駅から出てくる人を見ている。この人も誰かを待っているのだろうか。足先にしもやけの予感を感じながら、隣の人の様子を窺う。まだ湯気が立っていて、ミネストローネはまだ温かそうだ。もう随分立つのに、私の待ち人も、その人の待ち人も一向に現れない。
 自分の白い息だけをぼんやり眺めていたら、ふと、それが息ではなく湯気だと気がついた。いつの間にか木製のお椀を持っていた。横に立っていた人はいなくなっていた。次の電車が終電だ。私はお椀に口を付けるかどうか悩む。