懸恋-keren-
超短編
2010年11月17日水曜日
自分を落としてしまった話
どういう経緯だったかわからないけれども、とにかく月の蓋を上げて、街を見下ろしている時だった。
ふいに、顔にベタっと蝙蝠が張り付いて(その時は蝙蝠だとはわからなかったけれど)、驚き、振り払おうとして、月の縁にしがみついていた手を離してしまった。
月の外に転がり落ちるのではなく、中に落ちてしまった。
月は深く、深く、どんどん落ちた。
落ちて落ちて、それでも落ちて、途中で流星に助けられた。
だから、月の底がどうなっているのかを知ることはできなかったのだ。
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