お月さまが深刻そうな顔をしているので理由を尋ねると「帰れなくなった」という。
「かぐや姫に相談したら、きっと笑われますね」
さっぱりわけがわからない、という顔をする。かぐや姫には逢ったことがないのだろうか。
ともかく、月が帰れないのは困る。どうしたらいいか聞いてみると、少し考えたあとで、ロープで引っ張り上げて欲しいと頼まれた。
コウモリに叩かれた。
月の蓋を明けて、街を見下ろすと、お月さまが手を振っている。
青いロープを下ろすと、お月さまはそれにしがみついた。
ロープを引っ張る。案外軽いので、勢いよく引き上げた。
次に逢った時に「こないだは、どうして帰れなくなったのですか」と訊いた。
「転んで膝を擦りむいたのだ」
と、ズボンをたくし上げて膝を見せてきた。
小さな小さなかさぶたがひとつ。