電信柱にしがみつく少年に尋ねる。答えはわかっていたが。
「何してるんだい?」
「雨、待ってんの」
「雨? 昨日降ったばかりじゃないか。」
「あれは違った」
少年の視線は雲を射るように鋭い。
「……ふーん。疲れないか?」
「ここは、すこし高いから。雨が来るのが見える」
「そうか」
私はそれしか言わなかった。少年を見て、私は四十年前の自分を思って笑った。こんなに間抜けな姿で雨を待っていたのか、俺は。
「じゃあな……雨、来るといいな」
「うん」
少年は私を見なかった。下を見ると怖いんだよな、と私は呟きながら立ち去る。