「こちらへどうぞ」
と扉の前に案内された。
町の真ん中に扉だけポツンと。だが、あるべくしてある、というようなたたずまい。
私はちょっと雨に当たりたかった。
頭を冷やすためのような気もするし、アンニュイな気分に浸りたいからかもしれない。
どちらにせよ、そんな気分になるのが馬鹿馬鹿しいような天気だ。
太陽はひたすらに照り、空はどこまでも青い。
扉を開けると、しとしとと雨が降っていた。
周りの景色は何も変わらない。ただ一歩前に出たかのように。
しばらく辺りを歩いてみた。どんよりとした雲、沈んだ町の様子、なにもかも希望通りの雨。
気付くと扉は失くなっていたが、私の心は晴れ晴れしい。
2005年12月29日木曜日
2005年12月27日火曜日
代償
「びしょびしょじゃないか。どうしたんだ?」
というと妻は困った顔した。
「だって……」
リビングが水浸しなのだ。
彼女が格闘していたのは、娘が作ったてるてる坊主である。
明日は遠足だというのに、昨晩からの雨が止みそうにない。
娘は真剣にてるてる坊主を作っていたそうだ。
ところが、どうしてもひっくり返って頭が下になってしまうというのだ。
妻は娘が寝てからも、糸を付け直したり、頭の詰め物を減らしたりと手を尽くした。
ようやく安定したてるてる坊主が出来上がり、窓際に吊すと途端に部屋の中で雨が降ったという。
「でも、うちの中で降っている間は、外の雨は止んでいるの」
妻の指は、逆さまにてるてる坊主を摘んでいる。
こうしていれば部屋の中では雨は降らないが、外はザアザア降りだ。
「どうしよう……遠足」
私は妻の手からてるてる坊主を取り上げ、風呂場に向かった。
私はてるてる坊主をシャワー掛けに吊し、入浴した。
雨とシャワーに降られたティッシュペーパー製てるてる坊主は、無残な姿で床に落ち
恨めしそうに私を見上げた。
というと妻は困った顔した。
「だって……」
リビングが水浸しなのだ。
彼女が格闘していたのは、娘が作ったてるてる坊主である。
明日は遠足だというのに、昨晩からの雨が止みそうにない。
娘は真剣にてるてる坊主を作っていたそうだ。
ところが、どうしてもひっくり返って頭が下になってしまうというのだ。
妻は娘が寝てからも、糸を付け直したり、頭の詰め物を減らしたりと手を尽くした。
ようやく安定したてるてる坊主が出来上がり、窓際に吊すと途端に部屋の中で雨が降ったという。
「でも、うちの中で降っている間は、外の雨は止んでいるの」
妻の指は、逆さまにてるてる坊主を摘んでいる。
こうしていれば部屋の中では雨は降らないが、外はザアザア降りだ。
「どうしよう……遠足」
私は妻の手からてるてる坊主を取り上げ、風呂場に向かった。
私はてるてる坊主をシャワー掛けに吊し、入浴した。
雨とシャワーに降られたティッシュペーパー製てるてる坊主は、無残な姿で床に落ち
恨めしそうに私を見上げた。
2005年12月25日日曜日
2005年12月24日土曜日
2005年12月22日木曜日
2005年12月20日火曜日
2005年12月19日月曜日
2005年12月17日土曜日
2005年12月16日金曜日
2005年12月15日木曜日
2005年12月14日水曜日
むかしばなし
森の中で雨が降って来たの。そうしたら、いつもは薄暗い森が、ぱぁっと明るくなった。
町で雨が降る時とは逆ね。町は雨が降ると暗くなるでしょ?
雨粒はキラキラ輝いてた。私は服を全部脱いで、雨を浴びたの。手足も顔も真っ黒に汚れていたからね。森の雨はどんなシャワーより気持ちよかったのよ。
身体もすっかりきれいになって、クルクル回ると、小さな虹ができた。だから何度も回った。ずっと回ってたら目眩がして倒れちゃった。
森の中で寝転んだことがある?繁った葉の合間から、光と雨粒が降り注ぐの。雨がやむまでそうしていたかったけど、邪魔が入ったのよ。がっかりでしょう?
続きは、パパに聞いてらっしゃい。
町で雨が降る時とは逆ね。町は雨が降ると暗くなるでしょ?
雨粒はキラキラ輝いてた。私は服を全部脱いで、雨を浴びたの。手足も顔も真っ黒に汚れていたからね。森の雨はどんなシャワーより気持ちよかったのよ。
身体もすっかりきれいになって、クルクル回ると、小さな虹ができた。だから何度も回った。ずっと回ってたら目眩がして倒れちゃった。
森の中で寝転んだことがある?繁った葉の合間から、光と雨粒が降り注ぐの。雨がやむまでそうしていたかったけど、邪魔が入ったのよ。がっかりでしょう?
続きは、パパに聞いてらっしゃい。
2005年12月13日火曜日
Rain‐Boots ☆Boogie-woogie
雨が降ると靴箱の中の長靴が騒ぎだす。散歩前の犬みたいに興奮する。
靴箱から出してやると長靴はタップを踏みはじめる。
実に軽やかでジェントルマンだ。右足と左足、息もピッタリ。
雲よりもどんよりとしていた僕もウキウキしてくる。
さあ、長靴くん! お気に入りの傘を持って雨の街に繰り出そう。
靴箱から出してやると長靴はタップを踏みはじめる。
実に軽やかでジェントルマンだ。右足と左足、息もピッタリ。
雲よりもどんよりとしていた僕もウキウキしてくる。
さあ、長靴くん! お気に入りの傘を持って雨の街に繰り出そう。
2005年12月11日日曜日
話の途中
雨が降ったら、おしまい。
と言って、おじさんは紙芝居を始めた。
うさぎの耳の付いたシルクハットを頭に載せ、右手で紙芝居を、左手で台車に載った大きなオルゴールを操る。
音楽に合わせて調子よく紙芝居を読んだ。
おじさんの瞳は赤かった。この街は、いろんな色の目をした人がいるけれど赤い目を見たのははじめてだった。
雨はなかなか降らなかった。
おじさんは昼は子供向け、夜は大人向けの紙芝居をした。
子供はきっかり7時で追い出された。
「時間だ!お家へお帰り、坊ちゃん嬢ちゃん。また明日」
大人ではなかったけれど子供でもなかった僕は追い出されずに済んだ。
夜の紙芝居を見る時、僕は自分の顔が赤くなるのを必死で隠さなければならなかった。
そんな時に目が合うと、おじさんの目はピカリと輝いた。
雨が降ったのはおじさんが来てから8日目の夜中だった。
「雨が降ったからおしまい」
お話の途中だったのに、右手に傘を、左手に紙芝居を持って、オルゴールに跨がって赤い目のおじさんは消えた。
と言って、おじさんは紙芝居を始めた。
うさぎの耳の付いたシルクハットを頭に載せ、右手で紙芝居を、左手で台車に載った大きなオルゴールを操る。
音楽に合わせて調子よく紙芝居を読んだ。
おじさんの瞳は赤かった。この街は、いろんな色の目をした人がいるけれど赤い目を見たのははじめてだった。
雨はなかなか降らなかった。
おじさんは昼は子供向け、夜は大人向けの紙芝居をした。
子供はきっかり7時で追い出された。
「時間だ!お家へお帰り、坊ちゃん嬢ちゃん。また明日」
大人ではなかったけれど子供でもなかった僕は追い出されずに済んだ。
夜の紙芝居を見る時、僕は自分の顔が赤くなるのを必死で隠さなければならなかった。
そんな時に目が合うと、おじさんの目はピカリと輝いた。
雨が降ったのはおじさんが来てから8日目の夜中だった。
「雨が降ったからおしまい」
お話の途中だったのに、右手に傘を、左手に紙芝居を持って、オルゴールに跨がって赤い目のおじさんは消えた。
2005年12月10日土曜日
2005年12月9日金曜日
百年の恋
「モンドくん、モンドくん明日の天気はどうだね?」
とレオナルド・ションヴォリ氏が言うので主水くんは鉛筆片手に無線機に向かった。
主水くんは、熱心にノートに何やら書き留めてから無線機のスイッチを切り、ションヴォリ氏に告げた。
「博士、明日の降水確率は80%、薔薇の香りです」
ションヴォリ氏は飛び上がって喜ぶ。
「ほっほーい!」
翌日、薔薇の香りの雨がしっとりと降る中、ションヴォリ氏はばら色のスーツにばら色のレインコート
ばら色の長靴にばら色の傘を差し、薔薇の花束を抱えて、墓参りに出かけた。
初恋の人、ロザンナに会いに行くために。
レオナルド・ションヴォリ氏は、じいさんだ。
どれくらいじいさんかと言うと、年がわからないくらいのじいさんだ。
とレオナルド・ションヴォリ氏が言うので主水くんは鉛筆片手に無線機に向かった。
主水くんは、熱心にノートに何やら書き留めてから無線機のスイッチを切り、ションヴォリ氏に告げた。
「博士、明日の降水確率は80%、薔薇の香りです」
ションヴォリ氏は飛び上がって喜ぶ。
「ほっほーい!」
翌日、薔薇の香りの雨がしっとりと降る中、ションヴォリ氏はばら色のスーツにばら色のレインコート
ばら色の長靴にばら色の傘を差し、薔薇の花束を抱えて、墓参りに出かけた。
初恋の人、ロザンナに会いに行くために。
レオナルド・ションヴォリ氏は、じいさんだ。
どれくらいじいさんかと言うと、年がわからないくらいのじいさんだ。
2005年12月7日水曜日
2005年12月5日月曜日
2005年12月4日日曜日
2005年12月3日土曜日
2005年12月2日金曜日
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