懸恋-keren-
超短編
2005年11月26日土曜日
旅の途中
十日間の滞在中、その町で雨が止むことはなかった。
「ずいぶんよく降りますね。晴れが待ち遠しいでしょう?」
と宿屋の亭主に言うと、彼は全く訳がわからないという顔して言った。
「ハレ? ハレとはなんだい?」
雨は匂いを変え、声を変え色を変えながら降り続ける。雨が止むなんて聞いたことがない、と亭主は言った。
「洗濯物が乾かないのではないか」と尋ねると大笑いされた。
町を離れる日、静かな雨が降っていた。
家々の軒下に、シャツや下着が心地良さそうにそよいでいた。
私は傘を閉じた。
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