懸恋-keren-
超短編
2005年11月19日土曜日
雨とダンス
彼女は、雨が好きだった。
「どうして?」
「カラフルでしょ?」
僕にはどんよりとした冷たい雨しか思い浮かばない。
雨の朝、傘を差して踊る彼女がいた。
傘はオパールのように七色に輝いていた。
雨音は彼女のダンスに合わせて音色を変えた。
「ね?カラフルでしょ?」
一番鮮やかなのは、彼女の頬だった。
もう三日も雨が降り続けている。
テレビは、17回目の堤防の決壊を伝えた。
彼女はどこで踊っているのだろうか。
「やめろよ……なぁ? ……やめろったら!」
叫んでみても烈しすぎる雨音に消されるだけ。
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