知らない本屋、特に古本屋に入るのは、なかなか勇気がいるものだ。頑固な店主がハタキを持って待ち構えているかもしれない。しかし、掘り出し物への期待は、何よりも勝る。
私は初めて訪れた田舎町(どこの国のなんという町であるかは、私の胸に留めておきたい)で一軒の古書店を見つけたのだった。
私は埃と古い紙の匂いを思い店に入った。しかし、私の嗅覚は確かに「卵焼き」の匂いを感知したのだ。
それもそのはず、店には卵の本がずらりと並んでいたのだ。
「卵との日々」
「あぁ卵海峡」
「卵戦争はなぜ起きたか」
「卵伯爵の日記」
「世界の卵料理」
「1st写真集《16才、はじめての卵デス☆》」
「卵はかく語りき」
「1635年版卵白書」
「禁じられた卵」
「明解卵」
「どこかで卵が」
「歌劇【卵の湖】」
私は「卵詩集」と「卵の教え~卵教入門」 を手にとりレジへ向かった。
レジで眼鏡を掛けた卵に760×(国を特定できないよう通貨単位を記すことを避ける)を渡し店を出た。
帰路の汽車に乗り「卵詩集」を読もうと鞄を開けると、「卵詩集」も「卵の教え~卵教入門」も消えていた。そこには二つのゆで卵があるだけであった。