タカオの左腕には大きなアザがある。
「チョウみたい」
女がそこに唇を近付けようとしたのを乱暴に振り切る。
アザはかつて、本当に蝶だった。
七歳の時、タカオが捕まえたアゲハ蝶。
蝶は弱っていた。虫捕りが不得手だったタカオにあっけなく捕まり、それを待っていたように事切れた。それでもタカオは興奮した。
タカオは初めての獲物をじっくり見た。細かい毛、極彩色、鱗粉。すべてが不気味に美しかった。
と同時に、得体の知れない衝動に駆られてアゲハ蝶を左腕に右手で押し付けた。強く強く手が痺れるほどに。
いよいよ感覚がなくなって手を放すと、蝶はなく腕に蝶型のアザだけが残った。アザを見て母親は心配したが、タカオは満足だった。むしゃくしゃした時はアザを見た。蝶のアザは俺の勲章なんだ。
「こっちの獲物は、逃げても惜しくないな」
タカオは横たわる女を見下ろして思う。