「……は、のどかで良い所だ。昨日は市場で出会った老夫婦の家に泊まった。初めての経験だよ。もしも、この旅に出なかったら一生なかったことだろうな」
あてのない旅に出た友からの絵葉書を読み、俺は深いため息をついた。
辛い事が重なっていた彼に対し、俺は自分では気付かぬ内に優越感を持って接していた。
なのに写真からも文面からも青い空が溢れている。俺は焦った。
あいつは自分を取り戻した。
だが未来は見えないままではないか。
羨望と苛立ちが交じり合う。
彼が旅から帰ったら、俺は一体どんな顔をすればいいのだろう。
2003年8月30日土曜日
DEAR my boyfriend
ねぇ?わかる?
キミへの気持ちは「好き」とか「あいしてる」なんてコトバじゃ、とてもおさまらないんだよ。
でも「好きだよ」って言わずにはいられないのはどうしてだろう。
だから足りない分は、つないだ手から感じてね?お願いよ?
わたしは水色の便箋をビリビリと破って捨てた。
書けば書くほど嘘っぽくなるような気がしたから。
それよりも、お気に入りの服を着て会いにいこう。
わたしはパジャマを脱ぎ捨てた。
キミへの気持ちは「好き」とか「あいしてる」なんてコトバじゃ、とてもおさまらないんだよ。
でも「好きだよ」って言わずにはいられないのはどうしてだろう。
だから足りない分は、つないだ手から感じてね?お願いよ?
わたしは水色の便箋をビリビリと破って捨てた。
書けば書くほど嘘っぽくなるような気がしたから。
それよりも、お気に入りの服を着て会いにいこう。
わたしはパジャマを脱ぎ捨てた。
2003年8月28日木曜日
2003年8月27日水曜日
2003年8月26日火曜日
2003年8月23日土曜日
THERE IS NOTHING
小父さんがくれた本は分厚くて表紙は革でできていた。
ぼくはそれをパラパラとめくって、ちょっと考えた後に言った。
「日記帳?」
「へ?」
小父さんはすっとんきょうな声を出した。
「何も書いてないから……」
「え?」
小父さんには、その本の文字が読めるのに、ぼくには何も見えないのだった。
フクロウの提案で、本とそっくりな日記帳に書き写すことにした。
小父さんが本を読み、ぼくが書く。
三週間かけて完成した本は、小父さんには白紙のままに見えるらしい。
ためしにピーナツ売りに二人の本を見せた。
両方とも、読めた。
ぼくはそれをパラパラとめくって、ちょっと考えた後に言った。
「日記帳?」
「へ?」
小父さんはすっとんきょうな声を出した。
「何も書いてないから……」
「え?」
小父さんには、その本の文字が読めるのに、ぼくには何も見えないのだった。
フクロウの提案で、本とそっくりな日記帳に書き写すことにした。
小父さんが本を読み、ぼくが書く。
三週間かけて完成した本は、小父さんには白紙のままに見えるらしい。
ためしにピーナツ売りに二人の本を見せた。
両方とも、読めた。
2003年8月22日金曜日
2003年8月21日木曜日
2003年8月19日火曜日
2003年8月18日月曜日
THE GIANT-BIRD
初めてその巨大な鳥が夜空に出現したのは三日前だった。
それ以来、人々は夜の外出をしなくなった。
ぼくとピーナツ売りは頭を抱えていた。
その巨大な鳥は寂しい道化師の新しい友達なのだ。
どのようにして鳥と道化師が出会ったのかはわからない。
町の人が恐がっているからには、どうにかしなければいけないけれど
二人を引き離すことはできない。
小父さんに相談すると笑って答えた。
「地上から見えなければいいんだろう?
月影が出ない飛び方を教えてやろう」
町の騒ぎはぴたりと止んだ。
巨大な鳥は今夜も町の上空を飛んでいる。
それ以来、人々は夜の外出をしなくなった。
ぼくとピーナツ売りは頭を抱えていた。
その巨大な鳥は寂しい道化師の新しい友達なのだ。
どのようにして鳥と道化師が出会ったのかはわからない。
町の人が恐がっているからには、どうにかしなければいけないけれど
二人を引き離すことはできない。
小父さんに相談すると笑って答えた。
「地上から見えなければいいんだろう?
月影が出ない飛び方を教えてやろう」
町の騒ぎはぴたりと止んだ。
巨大な鳥は今夜も町の上空を飛んでいる。
2003年8月17日日曜日
2003年8月16日土曜日
どうして彼は喫煙家になったか
「それ、何の香り?」
「ん?キャラメルだな」
小父さんの煙草はピーナツ売りの特製だ。
タバコの葉は入ってないから本当は煙草じゃないんだけど。
次の日ぼくは、ピーナツ売りのところに手品を習いに行った。
「小父さんはなんであんな煙草吸うのかな」
「お月さんは、甘党なのさ。
こっちにいるときは香りだけでも始終味わっていたいんだよ」
「ふーん。でも、それなら食べればいいのに」
ピーナツ売りは笑って言った。
「そのうち煙草の作り方も教えてやらなきゃならんな。
背があと10センチ伸びたら教えてやる。手品より難しいぞ」
「ん?キャラメルだな」
小父さんの煙草はピーナツ売りの特製だ。
タバコの葉は入ってないから本当は煙草じゃないんだけど。
次の日ぼくは、ピーナツ売りのところに手品を習いに行った。
「小父さんはなんであんな煙草吸うのかな」
「お月さんは、甘党なのさ。
こっちにいるときは香りだけでも始終味わっていたいんだよ」
「ふーん。でも、それなら食べればいいのに」
ピーナツ売りは笑って言った。
「そのうち煙草の作り方も教えてやらなきゃならんな。
背があと10センチ伸びたら教えてやる。手品より難しいぞ」
A MOONSHINE
よく晴れた満月の晩、白い傘を差して歩く御婦人を時々見かけた。
ハテナと思ってはいたんだ。
それから、満月の夜に傘を差す人はだんだん増えていった。
はじめは女の人ばかりだったのに、男の人にも傘を差す人が出てきた。
ぼくはマネキンに聞いてみることにした。
「アレね、月傘っていうらしいわ。ずいぶん流行ってるわよ。月夜に傘差して歩くのがオシャレなんですって。あとね、月明かりは体に毒だって言う人もいるわ。」
なんてこった!小父さんが知ったらショゲちゃうよ。
‘月光はカラダにいい’ってうわさを流さなくちゃ。
ハテナと思ってはいたんだ。
それから、満月の夜に傘を差す人はだんだん増えていった。
はじめは女の人ばかりだったのに、男の人にも傘を差す人が出てきた。
ぼくはマネキンに聞いてみることにした。
「アレね、月傘っていうらしいわ。ずいぶん流行ってるわよ。月夜に傘差して歩くのがオシャレなんですって。あとね、月明かりは体に毒だって言う人もいるわ。」
なんてこった!小父さんが知ったらショゲちゃうよ。
‘月光はカラダにいい’ってうわさを流さなくちゃ。
2003年8月14日木曜日
はたしてビールびんの中に箒星がはいっていたか
ピーナツ売りがビールびんをぶら下げてやってきた。
「ビールが入っていないのだよ」
ピーナツ売りは自分と、ピーナツを買うお客のためにビールをケースで買う。
その中にからっぽのびんがあったというのだ。
「よく見てごらん。中で何か飛び回っている」
「ほんとうだ。虫……ではないね。」
ぼくには見当がついていた。これはたぶん箒星だ。
「よし、ちょっと早いけど小父さんを呼ぼう」
ピーナツ売りも真剣な顔で頷いた。
「ラングレヌス」
なぜだか、とても低い声になった。
「やぁ。ピーナツ売りも来ていたのか、お。ビールだ」
小父さんは、ぼくとピーナツ売りが怒鳴り散らして止めるのも聞かずびんを開けてしまった。
ヒュン と音がしたような気がしたけど、はたしてビールびんの中に箒星がはいっていたかどうかは、わからないままだ。
「ビールが入っていないのだよ」
ピーナツ売りは自分と、ピーナツを買うお客のためにビールをケースで買う。
その中にからっぽのびんがあったというのだ。
「よく見てごらん。中で何か飛び回っている」
「ほんとうだ。虫……ではないね。」
ぼくには見当がついていた。これはたぶん箒星だ。
「よし、ちょっと早いけど小父さんを呼ぼう」
ピーナツ売りも真剣な顔で頷いた。
「ラングレヌス」
なぜだか、とても低い声になった。
「やぁ。ピーナツ売りも来ていたのか、お。ビールだ」
小父さんは、ぼくとピーナツ売りが怒鳴り散らして止めるのも聞かずびんを開けてしまった。
ヒュン と音がしたような気がしたけど、はたしてビールびんの中に箒星がはいっていたかどうかは、わからないままだ。
2003年8月13日水曜日
2003年8月11日月曜日
お月様が三角になった話
夜になるのが待ち遠しかった。
寂しい道化師もめずらしく自分から遊びにきてそわそわしている。
そう、今夜は花火が上がるのだ。
日が沈むのに合わせ、ぼくたちは黒猫の塔のてっぺんに上がった。
特等席だ!
高いのが怖い小父さんも、ぼくや道化師の誘いに負けてやってきた。
ヒュー ドーン
一発目を合図に次々と色とりどりの花火が満月の真下で開く。
小父さんは「ドーン」のたびにビクッとしている。
そしてひときわ大きな花火のひときわ大きな「ドーン」と同時に
真上の満月は三角形になった。
小父さんは、と言うと 気絶していた。
寂しい道化師もめずらしく自分から遊びにきてそわそわしている。
そう、今夜は花火が上がるのだ。
日が沈むのに合わせ、ぼくたちは黒猫の塔のてっぺんに上がった。
特等席だ!
高いのが怖い小父さんも、ぼくや道化師の誘いに負けてやってきた。
ヒュー ドーン
一発目を合図に次々と色とりどりの花火が満月の真下で開く。
小父さんは「ドーン」のたびにビクッとしている。
そしてひときわ大きな花火のひときわ大きな「ドーン」と同時に
真上の満月は三角形になった。
小父さんは、と言うと 気絶していた。
2003年8月10日日曜日
2003年8月9日土曜日
土星が三つできた話
今夜は仮装パレードだ。
ぼくはずっと前から土星になろうと決めていた。
ずいぶん苦労して頭にかぶる輪っかを作ったんだ。
通りに出ると仮装した人でいっぱいだった。
「あ」
「どうした?」
ピーナツ売りはマジシャンの格好だ。
いつも手品をやってるから仮装ではないような気もするけど。
「あの人見て」
少し前を歩いている背の高い男の人がぼくと同じような輪っかを頭につけていた。
とても目立ってる。
「いやー」
ぼくのすぐ後ろで小さい子の泣き声がして振り向いた。
その子も輪っかをかぶっている。
ぼくとおそろいなのがお気に召さないらしい。
やれやれ土星が三つだ。
でも、月の仮装をした人は28人もいたんだ。
あちこちお月さんだらけでピーナツ売りは大笑いだった。
でもこのことは小父さんには内緒。
ぼくはずっと前から土星になろうと決めていた。
ずいぶん苦労して頭にかぶる輪っかを作ったんだ。
通りに出ると仮装した人でいっぱいだった。
「あ」
「どうした?」
ピーナツ売りはマジシャンの格好だ。
いつも手品をやってるから仮装ではないような気もするけど。
「あの人見て」
少し前を歩いている背の高い男の人がぼくと同じような輪っかを頭につけていた。
とても目立ってる。
「いやー」
ぼくのすぐ後ろで小さい子の泣き声がして振り向いた。
その子も輪っかをかぶっている。
ぼくとおそろいなのがお気に召さないらしい。
やれやれ土星が三つだ。
でも、月の仮装をした人は28人もいたんだ。
あちこちお月さんだらけでピーナツ売りは大笑いだった。
でもこのことは小父さんには内緒。
2003年8月6日水曜日
2003年8月4日月曜日
月夜のプロージット
「乾杯!」
ぼくたちは、夜風の中、乾杯した。星の降り積もった廃ビルの屋上で。
ぼくはハッカ水、小父さんはジンジャーハッカ水。
ピーナツ売りはビールで、寂しい道化師はアイスレモンティー。
ひょっこりついてきた、ねこのトーマにもミルクをやった。
ピーナツ売りが、それはそれはたくさんのピーナツを持ってきたのでツマミの心配はない。
「はたしてお月さん、今夜の乾杯のわけをお聞かせ願いましょう」
ピーナツ売りがまじめに聞いた。
そう、ぼくやピーナツ売りや道化師(と、ねこのトーマ)は誘われるまま、ここに集まったのだ。
小父さんは気取ってこう答えた。
「まだわからないのかね、諸君。見よ、こんなにも月が美しい!」
ぼくたちは、夜風の中、乾杯した。星の降り積もった廃ビルの屋上で。
ぼくはハッカ水、小父さんはジンジャーハッカ水。
ピーナツ売りはビールで、寂しい道化師はアイスレモンティー。
ひょっこりついてきた、ねこのトーマにもミルクをやった。
ピーナツ売りが、それはそれはたくさんのピーナツを持ってきたのでツマミの心配はない。
「はたしてお月さん、今夜の乾杯のわけをお聞かせ願いましょう」
ピーナツ売りがまじめに聞いた。
そう、ぼくやピーナツ売りや道化師(と、ねこのトーマ)は誘われるまま、ここに集まったのだ。
小父さんは気取ってこう答えた。
「まだわからないのかね、諸君。見よ、こんなにも月が美しい!」
2003年8月3日日曜日
2003年8月1日金曜日
A ROC ON A PAVEMENT
石が落ちていた。
不自然なくらいまんまるなそれをそっと拾い上げた。
ぼくはすぐに気づいたのだ。
小父さんの石によく似ている、と。
ぼくは小父さんではなく、フクロウにその石を見せることにした。
なんとなく、小父さんに見せるのは気が引けたから。
{これは・・・火星であろう}
「火星!」
{おそらく近くまで来たついでに散歩でもしているのであろう}
「返さなきゃ!」
火星はまだ見つからないので、チラシを作った。
[尋ね人Mr.MARSMANー丸き もの、当方で確かに預かりし。
すみやかに取りに来らるるべし]
不自然なくらいまんまるなそれをそっと拾い上げた。
ぼくはすぐに気づいたのだ。
小父さんの石によく似ている、と。
ぼくは小父さんではなく、フクロウにその石を見せることにした。
なんとなく、小父さんに見せるのは気が引けたから。
{これは・・・火星であろう}
「火星!」
{おそらく近くまで来たついでに散歩でもしているのであろう}
「返さなきゃ!」
火星はまだ見つからないので、チラシを作った。
[尋ね人Mr.MARSMANー丸き もの、当方で確かに預かりし。
すみやかに取りに来らるるべし]
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