2016年2月25日木曜日

二月二十五日 ヤギさん

 郵便配達員が、携帯電話で話をしている。気難しそうにウロウロとスクーターの周りを歩きながら、「はい、はい。ヤギさんが。はい、こちらでも把握しておりますが、はい」
八木さんがどうしたのだろうか。そういえば、最寄りの郵便局の窓口に八木さんという人がいる。先日、八木さんからヤギの図柄の切手を買った。
 家に着く。最近、玄関に立つと、小さな聞き慣れない音が聞こえる。どこから聞こえるのかわからない。少し気になるが、家に入るとすぐに忘れてしまう。
 一息入れて、ラジオを付けると「小さなヤギによる郵便物の盗難が多発している」というニュースが流れた。
 慌てて玄関に出る。ポストに近づくと、あの小さな音がはっきり聞こえてきた。紛れもなく咀嚼音。

2016年2月10日水曜日

二月十日 読書する犬

公園のベンチに、老人と犬。老人の広げる本を、脇から犬が熱心に覗き込んでいる。
タイトルが見えた。『正しいおじいさんの飼い方』

2016年1月16日土曜日

動物たちの晩餐

イエローの湯気が立ち上る。いい匂い。これから何か始まる予感がする。
ぽつり、ぽつり、と動物たちがやってきた。
最初はおとなしくしていた動物たちが、 突然、気配を濃厚にする。ライオンだ!
けれど、誰も逃げない。いい匂いがするからだろうか。
最後にスープが現れた。湯気の正体は、スープだった。温かいスープ、みんなで食べよう。

2016年1月15日 イベント「スープのたね」きくちちき、有賀薫


2016年1月3日日曜日

くじらの東宮

くじらの東宮は、春を目指す。冬が生まれたその瞬間に、春を求めて旅を始める。白い息を吐きながら、心はもう春の気配が芽吹いている。一直線に春を目指す。長い旅になるが、航路に間違いはない。

だが、今年は少しだけ後ろ髪を引かれながらの出立だった。冬を見送る秋の視線が、なぜか忘れられない。

 イラストレーション:へいじ

2015年12月22日火曜日

十二月二十二日 鳩

私の行く先々で、鳩が熱心に食事をしている。このまま進めば鳩の横や前や後ろをスレスレに歩くことになるが、おそらくは鳩のほうが先に気がついて飛び立つだろうと思う。
ところが、今日はどの鳩も、私のことなどお構いなしに食事を続けているのだった。靴と鳩とがぶつかりそうなくらいな距離なのに。ここいらの鳩には警戒心というものがないのか、けしからん。いや、もしかすると私の気配がないのかもしれない。ふと不安になる。

2015年12月14日月曜日

【お知らせ】江崎五恵(絵)×五十嵐彪太(文)「妄想二人展」

江崎五恵さんと二人展を行います。


江崎五恵(絵)×五十嵐彪太(文)「妄想二人展」
会期:2016年1月7日(木)~2月1日(月) 
定休日:火曜・水曜
時間:14:00~23:00
会場:カフェ百日紅 東京都板橋区板橋1-8-7 小森ビル101
交通:JR板橋駅西口徒歩4分 東武東上線下板橋駅徒歩3分 都営三田線新板橋駅A3出口徒歩6分

※喫茶店での展示です。1ドリンクオーダー願います。

 
江崎さんの鉛筆画に私が小さなお話(100字程度)をつけたものと、
私が書いた文を江崎さんが絵に仕立てたものを展示します。

特に後者は「妄想絵手紙(エロス度高め)」という設定で、絵の中に全文が描き入れられた「読む絵」となっています。 自分の文章が文字ごと「絵になる」のは、もちろん初めてのことです。絵画作品としても超短編作品としてもちょっと珍しいものになったと思います。お時間ありましたらお運びいただければ幸いです。

2015年12月10日木曜日

姫君の物思い

旅から帰ったかぼちゃの姫君は、冬のことが忘れられずにいた。栗鼠ともキノコとも遊ぶことが出来ない代わりに、物思いに耽る時間はたっぷりある。

白い息をほうっと吐く。息が白いのも、クリスマスが静かなのも、森の霜が美しいのも、冬に包まれているから。

冬が愛おしいのは、冬が生まれるのを見てしまったからだろうか。こんなに寒いのに、まだまだ春は先なのに、春が来るのがなんだか怖い。

イラストレーション:へいじ