2024年7月4日木曜日

アクアリウム #文披31題 day4

一緒に暮らすことになった小さな人魚の姫のために水槽造りを始めた。優雅に揺れる水草。そうだ、城も建てよう。築城中に姫は成長し、水槽は手狭になり、インテリア好きの姫により、この家はすっかり人魚仕様になった。今夜もシュノーケルをしたまま人魚に抱かれて眠る。(125字 )

2024年7月3日水曜日

飛ぶ #文披31題 day3

大きな紙飛行機が飛んでいたので「乗せて」と叫んだら、すぅと降りてきた。折り目の隙間にうつ伏せに乗り込むと凄い勢いで飛び立った。あぁ紙飛行機だから誰かが飛ばしたんだ。どんなに大きな手だろうか。振り返りたかったけれど、うつ伏せでは難しく、ただ入道雲が迫ってくる。(129字)

2024年7月2日火曜日

喫茶店 #文披31題 day2

神輿や、法被を着た者たちが窓の向こうを次々通り過ぎる。外の喧騒をよそに店内は驚くほど静かだ。ぬるい珈琲を啜りながら祭の様子を眺める。異形の者が紛れ込んでいる。彼らは私に見られていることに気付くと会釈を寄越す。その瞬間だけ祭囃子が私の鼓膜を激しく揺らすのだ。(128字)

2024年7月1日月曜日

夕涼み #文披31題 day1

さっきまでカキ氷を頬張っていた君が寒いと言う。熱気の抜けた風が吹く夕暮れは近頃、滅多にない。「昔の夏はこんな感じだったよ」カーディガンを貸してやりながら言う。いつの間にか私の服がブカブカじゃなくなってきたね。まだ柔らかな手を繋ぎ直す。ゆっくり歩いて帰ろう。(128字)

2024年5月15日水曜日

言葉の舟 140字小説コンテスト 習作3

島には本屋も図書館もないけれど移動図書館なら来る。図書館船だ。船長兼、館長の趣味丸出しの図書館船は少し妖しくて、大人は乗りたがらない。陽射しと潮風に当たりっぱなしだから本はゴワゴワしていて色褪せている。そこでたくさんの言葉を覚えた。デカダンスは大きい箪笥のことじゃない、とかね。(139字)

2024年5月8日水曜日

言葉の舟 140字小説コンテスト 習作2

雨のビート。同心円に広がる水の高まり。雨粒が水溜りに作る波を見つめる。その波紋の中心から宇宙船が出でくると長い間、信じていた。どこかで聞いたおとぎ話だと思っていた。今、真剣な眼差しで小さな宇宙船を水溜りに浮かべる恋人に傘を差し掛ける。静かに沈む宇宙船。おとぎ話なんかじゃなかった。(140字)

2024年5月6日月曜日

言葉の舟 140字小説コンテスト 習作1

旅人が筏でやってきた。よく出来た筏だと褒めると「差し上げます」という。「新しい舟を作ります」と、どこからか大きな笹の葉を採ってきて器用に笹舟を作り、ささやかに出航していった。その人は昔、豪華客船の船長だったそうだ。舟を簡素にしながら旅を続けているという。さて、私は筏で向こう岸へ。(140字)