2023年7月6日木曜日

アバター #文披31題 day6

タイムトラベルで我が家に滞在中の先祖、インターネットやオンラインゲームをやってみたいがアバターを作るのは畏れ多くてできぬと宣う。曰く、化身を作ってよいのは神仏だけだと。大昔からやって来ておいて何を言うのだ、あんたはここでは神仏同然だ。(117字)

2023年7月5日水曜日

蛍 #文披31題 day5

 ピカピカ飛ぶものを追いかけていた。やけに機敏な飛び方をする蛍だった。「地球人、動くな」と言われ、蛍だと思ったものが宇宙船だと知った。直後に私のすぐ足元に宇宙船は着陸したから、つんのめった私はそれを踏んづけてしまった。その年、米が豊作だった。(120字)

2023年7月4日火曜日

触れる #文披31題 day4

 4歳の頃、得体の知れないものの感触を「どぅびどぅび」と呼んでいた。長じて「ざりざり」や「ふにゃふにゃ」などに置き換わっていったが、いつまでも「どぅびどぅび」としか表せないものが、ひとつ残った。「どぅびどぅび」に指先で触れる。どぅびどぅびする。(121字)

2023年7月3日月曜日

文鳥 #文披31題 day3

昔いた文鳥のことを思う。あれは文鳥の姿はしていたがブンチョウではなく、フミドリだった。毎朝、鳥籠を覗くと桜色の嘴に一筆箋を挟んで澄ましていた。「昨日の粟は格別に美味」「盛った猫の声は麗しくない」長く生きたが、筆を持つところは終ぞ見なかった。(120字)

2023年7月2日日曜日

透明 #文披31題 day2

私という存在が視覚的に確認できなくなり四日目。往来で踊っても誰ひとり見向きもしない。唄っちまえ。「彼方ぃ此方ぃの落ち零れぇ〜とはオイラのことよォ♪」「ワォン!」足元に生暖かい水溜りの出現。やぁ、視覚的に確認できない野良犬よ、逢えて嬉しい。(119字)

2023年7月1日土曜日

傘 #文披31題 day1

新しい傘は雨の日をご機嫌にしてくれるはずだった。なのに、この傘は差すと金平糖を降らす。私が通ると金平糖の道ができ、夏の温い雨にゆるむ金平糖を求めて蟻が付いて来る。金平糖をたっぷり食べた蟻はすっかり大きくなり、近頃なぜか私と手を繋ぎたがる。(119字)

2023年6月3日土曜日

6月の星々

長く激しい雨だ。衣服はとうに乾くのを諦め、じっとりと重い。毎日、短い詩を書き付けていた日記帳は湿気で膨れ上がった。インクは滲み、読めなくなった。雨が盗んでいったのだ。私の詩は川に流れ、海に出て蒸発し、雲になり、そして星々に読まれることだろう。(121字)