私には少々風変わりな叔父がいた。近所の空地にテントを張って暮らしてみたり、外国に行くといって出て行ったと思ったら隣町の飲み屋で酔いつぶれていたり、ものすごく美人の女の人が高級車で迎えに来たり。何をやっているのかわからない。
そんな叔父が一度だけ手料理を食べさせてくれたことがある。梅干しの入った黒米のスープ。その頃の私は黒米なんて知らなかったから、「おう、食え」と出されたお椀の濃紫色を見て、ギョッとしたものだ。だけれど、叔父がニコニコとこちらを見ているので仕方ない。梅干しをほぐしながら啜る。
「あ、おいしい……」
それは身体にすっと沁み渡るような、ほっとするような味だった。叔父は、見たこともないような優しい顔で私を見て、それから満足そうに笑った。
「おれの開発した、縄文風スープだ」
その後しばらくして、叔父は本当にどこかに行ってしまった。叔父はきっと縄文時代に帰っていったのだろう、とちょっと思っている。