娘が「ただいま」の声もなく帰ってきた。「どうしたの?」と訊こうとして、やめた。口を結んでいないと大粒の涙が零れてしまうのだ、この顔は。言いたくないことを無理に訊くことはない、と心に言い聞かせてから、冷蔵庫から甘夏のジュレを出した。ミントの葉もちょこんと乗せて。
ゆっくり味わうようにジュレを食べる娘の表情が少し和らいだところで「お母さんにも一口ちょうだい」と言ってみた。てっきり「ダメ」と言われるかと思いきや「しようがないなぁ。あーん、して」とスプーンが伸びてきた。
あら、しょっぱい。「ありがと」
「どういたしまして」とちょっぴり偉そうに返す娘はすっかりいつもの顔に戻っていた。
娘の涙を引き受けてくれたジュレにも「ありがと」。