2011年3月19日土曜日

月夜のプロージット

か細い月が出た夜、黒い箱は音もなく開いた。

お月さまの家は、意外にも近かった。
そこはずっとずっと長い間、空き家だったところで、子供の頃「お化け屋敷」と呼ばれていた家だった。
招かれて行ってみると、空き家だった時間がなかったかのように、家は何食わぬ顔で温かそうにしている。
「いらっしゃい。新しいお月さま」
そう言われて、今夜が「その時」なのだと気がつく。

小さな黒い箱には、小さな盃が入っていた。
「さて、乾杯しよう」
旧お月さまは、手にグラスを持つ。
「Prosit」
盃とグラスを合わせたら、「カリン」と高く軽やかな音がした。
「これでキミは月に帰れるのだ」