この雛人形は、買い求めたものではない。お雛様が欲しい欲しいと騒いでいた私に両親は「お雛様は買うものじゃない」ときっぱりと言った。
両親の言う通り、四歳の桃の節句の数日前に、お雛様御一行は、しずしずと歩いてやってきた。
私は口をあんぐり開けてただただ見下ろしていたが、母は驚きもせずに、「ほら、よかったこと。やっとあなたのお雛様がいらしゃったのよ」と手際よく雛壇をしつらえたのだった。
そんな雛人形なのに、大人になってからは忙しさや家の狭さを言い訳に、長いこと出していなかった。
うしろめたい気持ちで人形や道具を取り出す。
牛車に泥が付いているところを見ると、退屈していたわけではなさそうで、少し安心した。