人工珊瑚礁の海辺で、母さんは僕を産んだという。
「それはそれは神秘的な光景だったさ。満月の夜でな、人工珊瑚も産卵していた。母さんは、とても苦しんでいたけれど、とても綺麗だった」
父さんは、砂浜から僕が産まれるのを眺めていたそうだ。
けれど、母さんは僕を産んで、最初のおっぱいだけを飲ませた後、海に帰ってしまった。人工珊瑚礁よりもっと沖の深い深い海に。
どうして僕を置いていったのだろう。
父さんは、相変わらず母さんが好きで、うっとりと同じ思い出話をする。
逢えないのに、寂しくないの? 置いていかれて、怒っていないの?
何度も何度も訊いたけれど、答えはいつも同じ。
「だって母さんは海の人だから。お前もいつか、海の人と愛し合うのさ」
だけど、僕は海が怖い。もうすぐ十二歳になるというのに。
人工珊瑚は整然としすぎている。この海で僕は泳ぐことができない。
(365字)