懸恋-keren-
超短編
2009年6月10日水曜日
楽天家たち
静かな静かな洪水だ。
人々は思い思いの浮き輪や筏を使い、流れに身を任せた。
街を飲み込み、家々を超す水位になったというのに、濁流となることはなかった。水はあくまでも透明なまま、ゆっくりと流れている。
人々は街を水上から覗き、眺めた。水中の信号機、水中の街路樹、水中の郵便ポスト。
「我々はどこに行くのだろう」
誰もが口にしたが、知る者はいない。
「我々はどうなるのだろう」
誰もが口にしたが、泣く者はいない。
(197字)
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