沸騰滝。地下のマグマが地下水を熱し、噴き上げる。山肌に到達した熱い地下水は湯気を上げながら勢いよく崖を落下する。
滝壺に棲む魚は、湯の中を濁った眼で泳いでいる。
ここの魚は美味いらしいが、もはや初めから煮魚で、煮ることも焼くことも、捌く必要すらなく、もくもくとした湯気が立ち込める中、釣ったばかりの魚を箸でつっつき、つっつき食するのだ。
(166字)
2009年6月29日月曜日
2009年6月27日土曜日
2009年6月23日火曜日
2009年6月22日月曜日
2009年6月20日土曜日
霧の中
向こうの山が朧に白い。霧が深いのに妙に空が明るいのは、月が丸いからだろう。
霧は尋常じゃないほど深い。服は絞れそうなほどぐっしょりと重たい。心なしか息をするのも苦しい。
今、此処は水中でもなく、空中でもないのだ、きっと。
いくら明るいとはいえ山道の足元は暗い。一歩先の地面はぽっかりと穴が空いているやもしれぬ、そんな恐怖を打ち消し打ち消し、歩を進める。
どこに向かっているのか、わからない。けれども隣には君がいる。それは望んだことだから、幸せなことだ。
君は何も言わずに、この湿気がこれ以上なく飽和したこの道を、とぼとぼと歩いている。
せっかく二人で歩いているのだから、と少し強引に手を取った。握り返す力に安堵しながらも、そういえば手を繋いで歩くのは初めててだな、と気が付く。
また少し霧が重くなった。
(344字)
霧は尋常じゃないほど深い。服は絞れそうなほどぐっしょりと重たい。心なしか息をするのも苦しい。
今、此処は水中でもなく、空中でもないのだ、きっと。
いくら明るいとはいえ山道の足元は暗い。一歩先の地面はぽっかりと穴が空いているやもしれぬ、そんな恐怖を打ち消し打ち消し、歩を進める。
どこに向かっているのか、わからない。けれども隣には君がいる。それは望んだことだから、幸せなことだ。
君は何も言わずに、この湿気がこれ以上なく飽和したこの道を、とぼとぼと歩いている。
せっかく二人で歩いているのだから、と少し強引に手を取った。握り返す力に安堵しながらも、そういえば手を繋いで歩くのは初めててだな、と気が付く。
また少し霧が重くなった。
(344字)
2009年6月18日木曜日
2009年6月16日火曜日
パイロットは大変だ
海中を飛ぶ飛行機は大変だ。エイだのサメだのマグロだのイルカだのが、なぜだか飛行機に対抗するから、パイロットの気苦労は絶えない。
飛行機というものが、もともとは空を飛ぶヤツだと知ったイルカだのエイだのマグロだのサメは、ついに空に進出して雲のまにまにぐんぐん泳いでいるから、やっぱりパイロットは気が気じゃない。
(152字)
『「おまえだ!」とカピバラはいった』斉藤洋 を読んだ勢い。
マンタが高層マンションの窓をすり抜けて少年を訪ねる話です。(乱暴な説明)
にしても、小学校中学年くらいから読める本で、そこはかとなく「スケベオヤジ心」が滲みでているんだけど(笑)。
飛行機というものが、もともとは空を飛ぶヤツだと知ったイルカだのエイだのマグロだのサメは、ついに空に進出して雲のまにまにぐんぐん泳いでいるから、やっぱりパイロットは気が気じゃない。
(152字)
『「おまえだ!」とカピバラはいった』斉藤洋 を読んだ勢い。
マンタが高層マンションの窓をすり抜けて少年を訪ねる話です。(乱暴な説明)
にしても、小学校中学年くらいから読める本で、そこはかとなく「スケベオヤジ心」が滲みでているんだけど(笑)。
2009年6月15日月曜日
2009年6月14日日曜日
珊瑚礁の向こう側
人工珊瑚礁の海辺で、母さんは僕を産んだという。
「それはそれは神秘的な光景だったさ。満月の夜でな、人工珊瑚も産卵していた。母さんは、とても苦しんでいたけれど、とても綺麗だった」
父さんは、砂浜から僕が産まれるのを眺めていたそうだ。
けれど、母さんは僕を産んで、最初のおっぱいだけを飲ませた後、海に帰ってしまった。人工珊瑚礁よりもっと沖の深い深い海に。
どうして僕を置いていったのだろう。
父さんは、相変わらず母さんが好きで、うっとりと同じ思い出話をする。
逢えないのに、寂しくないの? 置いていかれて、怒っていないの?
何度も何度も訊いたけれど、答えはいつも同じ。
「だって母さんは海の人だから。お前もいつか、海の人と愛し合うのさ」
だけど、僕は海が怖い。もうすぐ十二歳になるというのに。
人工珊瑚は整然としすぎている。この海で僕は泳ぐことができない。
(365字)
「それはそれは神秘的な光景だったさ。満月の夜でな、人工珊瑚も産卵していた。母さんは、とても苦しんでいたけれど、とても綺麗だった」
父さんは、砂浜から僕が産まれるのを眺めていたそうだ。
けれど、母さんは僕を産んで、最初のおっぱいだけを飲ませた後、海に帰ってしまった。人工珊瑚礁よりもっと沖の深い深い海に。
どうして僕を置いていったのだろう。
父さんは、相変わらず母さんが好きで、うっとりと同じ思い出話をする。
逢えないのに、寂しくないの? 置いていかれて、怒っていないの?
何度も何度も訊いたけれど、答えはいつも同じ。
「だって母さんは海の人だから。お前もいつか、海の人と愛し合うのさ」
だけど、僕は海が怖い。もうすぐ十二歳になるというのに。
人工珊瑚は整然としすぎている。この海で僕は泳ぐことができない。
(365字)
2009年6月13日土曜日
2009年6月12日金曜日
どういうわけか、干からびた。
どういうわけか、枯れない水溜りがあるのである。
東京の、どこかの、アスファルトの上。
どういうわけか、太陽はその水溜りが気になって仕方がない。
太陽は、がんばる。張り切った。
そして、少々張り切りすぎた。水溜り以外全部、干からびた。
田んぼはカラカラ、森はパサパサ。
太陽は反省したので、雨雲を呼ぼうとしたけれど、雲さえも、雲を生む海さえも干からびてしまったから、もうおしまい。
けれども水溜りだけは相変わらず水深1.3センチを保っている。
(213字)
東京の、どこかの、アスファルトの上。
どういうわけか、太陽はその水溜りが気になって仕方がない。
太陽は、がんばる。張り切った。
そして、少々張り切りすぎた。水溜り以外全部、干からびた。
田んぼはカラカラ、森はパサパサ。
太陽は反省したので、雨雲を呼ぼうとしたけれど、雲さえも、雲を生む海さえも干からびてしまったから、もうおしまい。
けれども水溜りだけは相変わらず水深1.3センチを保っている。
(213字)
2009年6月10日水曜日
2009年6月8日月曜日
隠遁
井戸は僕を隠してくれる。
真っ暗で深くて、水が身体を冷やしてくれるから好きだ。
誰にも逢いたくないときは、井戸に飛び込めばいい。
そう教えてくれたのは、ほかでもなく井戸だった。
いつでもいらっしゃいと言う井戸は菩薩さまよりやさしい。
でも天狗だけは、いつも僕を見つけてしまう。
「出たくない。ここは気持ちがいいから」
と天狗に食いついても、天狗は大きな嘴で僕の首根っこを咥えて井戸から引きづり出す。
井戸から出る瞬間、眩しさと切なさに目が眩む。
心地よかった水が、すべて僕の身体から離れてしまう。
「いつまでも井戸にいたら、お前も井戸も枯れてしまう」
何度諭されても、その意味がわからない。
泣き叫ぶためにまた僕は井戸に飛び込む。少し水が温いような気がする。
(317字)
真っ暗で深くて、水が身体を冷やしてくれるから好きだ。
誰にも逢いたくないときは、井戸に飛び込めばいい。
そう教えてくれたのは、ほかでもなく井戸だった。
いつでもいらっしゃいと言う井戸は菩薩さまよりやさしい。
でも天狗だけは、いつも僕を見つけてしまう。
「出たくない。ここは気持ちがいいから」
と天狗に食いついても、天狗は大きな嘴で僕の首根っこを咥えて井戸から引きづり出す。
井戸から出る瞬間、眩しさと切なさに目が眩む。
心地よかった水が、すべて僕の身体から離れてしまう。
「いつまでも井戸にいたら、お前も井戸も枯れてしまう」
何度諭されても、その意味がわからない。
泣き叫ぶためにまた僕は井戸に飛び込む。少し水が温いような気がする。
(317字)
2009年6月7日日曜日
2009年6月4日木曜日
聴きたい歌があるんだ
2009年6月1日月曜日
愛の雫
豊かな森の中には湧水がいくつもある。愛し合う神が抱き合い、雫が滴るから泉が湧く。
いつか山歩きの途中で出会ったお婆さんが言っていた。
神様っていっても男と女だろ、永く見つめ合ってたら、火花が散ることもあるだろうにねぇ。お婆さんは悪戯っぽく笑った。
それ以来、ぼくは火打ち石を持って山に入る。湧水を見つけると、カチカチと石を鳴らして手を合わせる。神様たちの代わりに火花を出すのだ。
だってほら、いつまでも存分に愛し合っていてもらわなくちゃ、水が飲めなくなってしまうから、ね。
(232字)
京都フラワーツーリズムのHP、「ノベルなび」に拙作「はかなげな」が公開されました。哲学の道が舞台です。子供の頃に行った京都での思い出を元に書いたものです。
ノベルなびのこと、京都新聞にも記事が出たそうです。
いつか山歩きの途中で出会ったお婆さんが言っていた。
神様っていっても男と女だろ、永く見つめ合ってたら、火花が散ることもあるだろうにねぇ。お婆さんは悪戯っぽく笑った。
それ以来、ぼくは火打ち石を持って山に入る。湧水を見つけると、カチカチと石を鳴らして手を合わせる。神様たちの代わりに火花を出すのだ。
だってほら、いつまでも存分に愛し合っていてもらわなくちゃ、水が飲めなくなってしまうから、ね。
(232字)
京都フラワーツーリズムのHP、「ノベルなび」に拙作「はかなげな」が公開されました。哲学の道が舞台です。子供の頃に行った京都での思い出を元に書いたものです。
ノベルなびのこと、京都新聞にも記事が出たそうです。
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