懸恋-keren-
超短編
2008年12月14日日曜日
湖
湖面に浮かぶ手を見つけた男がいた。溺死体かと急ぎ近づき舟から身を乗り出して覗こむが、指は力強く空(くう)を弄り、水中に沈んでいるはずの腕や身体がないことに気づくと、男は愈愈興味を引かれた。夜な夜なその手を慰み物として使うことはとても良い考えだ、と思った。彼には妻も恋人も友人もいない。
男は網で手を掬い上げた。その瞬間、水はすべて炎になった。炎の波に揺れる小さな舟に、炭となった男の上を蠢く手だけが瑞瑞しく白い。
【アトリエ超短編投稿作】
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