クリスマスイヴまであと四日だというのに、商店街からもラジオからも、クリスマスソングが一向に聞こえてこない。
どうにも気分が盛り上がらなくていかん、と思ったので小学生の時に買ったクリスマスソングのレコードを引っ張り出してきた。
針を落としてもチリチリピチピチいうだけで何も音楽は流れてこない、ぐるぐる回る黒い円盤を眺めて数十分、B面にひっくり返してまた数十分。とうとうクリスマスソングは一節も聴こえなかった。
ならば大声で唄おう、ジングルベルを。
往来に出て唄い始めたが、僕の口から出てきたのはジングルベル、ではなかった。
「サンタクロースはぎっくり腰につき、クリスマスを延期する。しばし待たれよ」
よく響くテノールの声だった。