浮かぶのに、ちょっとした勇気とコツが要るのは、塩水の海と同様だ。
けれども、塩水の海のように手足を振り回すことも、醜い面で息継ぎをする必要もない。
それは初めのうち、僕をひどく混乱させた。手足を動かして体勢を整えることが何の意味も持たないことを理解するまで、随分かかった。
つまり、身体を動かそうと動かすまいと、一切状況は変わらないのだ。
必要なのは光で、光有れと願うことだけだった。
僕はこの海に飛び込んだ理由を思い出していた。夜空を白くする程に眩ゆい光が溢れ、僕はかつてない胸の高鳴りを覚えたのだ。昨日まで何よりも美しいと感じていた夜空の月も星も、その存在すら忘れていた。
ふと、眼下に影があることに気付く。それは僕の影で、その影があまりにくっきりと正しい黒なので、ほんの一瞬見惚れた僕は、忽ち海の底よりも深くに沈んでいく。