ビルの屋上に上がる。いつでも雷が見えるから。
稲光はスピネルのような赤で、ぼくはうっとりと眺めてしまう。
遅れて、雷鳴が聞こえる。
それが断末魔の悲鳴だと知ったのは、五歳の時だった。
「雷に打たれにゆくから、さよならだ、小僧。明日の夕方に聞こえた雷のどれかが俺の声だ。ちゃんと聞いておけよ。ビルの屋上に上れば、よく聞こえるはずだ」
と顔馴染みの年老いたルンペンに言われた。
ルンペンはもう起き上がれないほど弱っているのに、どうやって雷までゆくのだろう、という問いには応えはなかった。ルンペンはすぐに寝息を立ててしまった。
ぼくは、雷がどこに落ちるのか知らない。ビルの屋上から見る赤い雷は果てしなく遠いようで、すぐそばのようにも見える。
その時が来ればわかるのだろうか、あのルンペンのように。