2008年8月19日火曜日

東京

地図を見ながら路地に入る。
どの家も玄関先に小さな鉢植えを所狭しと置いていて、狭い道がますます窮屈になっている。
複雑な地図に困り、ポケットからコンパスを取り出すが、磁石は気まぐれに向きを変えるので諦めた。
「このあたりに、キタムラという印刷所があるはずなんだが」
朝顔に訊ねても、猫に聞いてもわからない。とぼけてこたえてくれないのだ。
猫がおもしろがってついてくるから、知ってるくせにどうして教えてくれないんだと文句を垂れながら歩く。
いくらも歩かないのに、コンクリートジャングルのど真ん中にいた。あまりに唐突に風景が変わり、たじろぐ。
振り返ると猫の姿はなく、路地は陽炎でゆらゆらと見えない。
もう一度あの中に戻ろうかと迷っていると、汚れた商用車が陽炎に突っ込んで行った。