懸恋-keren-
超短編
2006年4月23日日曜日
雨と血
「あなたはどんな雨よりいい香りがするわ」
とマダムは僕の腕の中で呟いた。
マダムは雨を収集している。
マダムの部屋に入ると、濃厚な雨の香りが充満していて、吐き気がする。
所狭しと並ぶ趣味の悪い派手な瓶を見ると、いよいよ吐き気は酷くなる。
マダムは犬のように僕の腋の下を舐めている。
僕は腋の下にナイフを突き刺すことにする。
匂いさえしなければ、マダムは僕への興味を失うはずだ。
土砂降りの日がいい。むせるような甘い雨の香りが、僕の忌まわしい匂いを少しは掻き消してくれるだろう。
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