懸恋-keren-
超短編
2006年4月28日金曜日
ザクロ
割れたザクロから一粒、実を取出して、彼は空を仰ぎ見た。
目に汁を搾り垂らす。一滴づつ。
私は顔を背ける。あんなに酸っぱい実の果汁を、目に注したら……! ああ、なんということだろう。
彼はうめき声ひとつあげずに耐えているのに、私のほうがずっと混乱している。
「もう、大丈夫だよ」
と声がして恐る恐る振り向くと
ガーネットのような硬い赤い瞳になった彼がいた。
彼の瞳が赤いうちに、契りを結ばなくてはならないのだ。子を成すために。
それを自覚した私は、赤い瞳に吸い込まれた。
次の投稿
前の投稿
ホーム