2006年3月18日土曜日

モノクロームはレモン

「カメレオンみたい、このカメラ」
と、マモルは言った。マコトは首を傾げる。
 マコトは父から譲り受けた古いカメラを持ち歩いている。フィルムは自動巻きではないし、ピントも合わせなければならない。いつのまにか現像も自分でやるようになった。手間はかかるが、その手間がマコトには面白い。
 ほとんどの被写体はマモルだ。街中で撮ることもあるが、裸になってもらうことも多い。マモルは自身の全裸姿の写真を何のためらいもなくめくりながら、カメレオンみたい、と言っている。
「カメラがカメレオン?ダジャレか?」
マコトが問う。
「カメレオン。マコトのカメラで撮った、わたしの身体。一枚づつ色が違う。だからカメレオン」
マコトの撮った写真は、モノクロだ。
「これは、赤い。これは、青い。これは緑だし、これは黄色」
「ぼくには、わからないよ」
「鈍感だなあ。自分で撮ったくせに、わからないの?」
じゃあ今から撮ってよ、とマモルは言いながら服を脱ぐ。裸になったマモルは、カメラを向けるとスッと近付いてきてレンズをぺろりと舐めた。
「撮って」
ぺろり・カシャリ、またぺろり・カシャリ。
「なんで、舐めるの?」
「レンズってすっぱいんだね。すっぱくて、おいしい」
ファインダーを覗くマコトの視界いっぱいに、マモルの舌が素早くうごめいて去っていく。
 出来上がった写真の中のマモルの肢体には、淡い色の靄がかかっていた。これは桜色、こっちは山吹色、それは菫色……。
「ほらね、わたしの言った通りでしょう?」
「舐めたから、色が出たのか?」
「さあ、どうかな。すっぱいレンズ、おいしかったし」
「マモル」
「なに?」
「舐めて」
マモルは笑いながら、あかんべえをした。

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千文字世界「禁断の果実」投稿作