2003年1月20日月曜日

THERE IS NOTHING

旅から帰った友人はひどく疲れていた。
「どうだった?旅行」
「何もなかったよ」
彼は憔悴している、と言っていいくらいだった。
私は気にはなったが、それ以上何も語ろうとしない彼を追求はしなかったし、やがて忘れてしまった。

彼の憔悴の意味に気付いたのは八年後、彼の通夜の席だった。
そうか、あいつの旅行の行き先は八年後の未来だった……。

「何もなかったよ」彼の声が頭の中で繰り返された。
帰り道、ガス燈を思いっきり蹴った。
明日の朝、ガス燈に謝っておこう。