懸恋-keren-
超短編
2003年1月22日水曜日
MUR MUR
壁からでてきたのはウサギだった。
「なんだ、おまえか」
「なんだはないでしょ、旦那。遠路はるばる来たというのに」
はるばるだって?壁から出てきておいて?そう思ったが、口には出さなかった。
ウサギは大きな風呂敷包みを開いて商売を始めた。
「これは星の欠片。新鮮だよ。こっちの流星のシッポも貴重品だ」
「どうせまがい物なんだろう。帰った帰った」
するとウサギは素直に帰ってしまった。さっきの壁から。
壁には黒い跡がくっきり残っていた。
ウサギ形ではないその影に、私は見覚えがあった。
「待ってくれ!」
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