『スターダスト』の店内は客もまばらで静かだった。
私は長い間疑問だったことをお月さまに聞いた。
「アポロが月へ行ったとき、お月さまはどうしたんですか?」
「……黙っていましたよ」
「……そうですか。そうですよね」
「本当は聞きたかったのです。『何か御用ですか?』って」
「……ずいぶん失礼でしたね、人間は。『ごめんください』くらい言わなければいけませんよね」
「何用あって月世界へ…月はながめるものである」
山本夏彦
2003年1月30日木曜日
お月様が飛ばされた話
あなたは知らないでしょう?
ひどい吹雪の晩は月も凍えて吹き飛ばされてしまうことを。
一年の半分を雪とともに過ごすような
寒い寒い街の大吹雪の夜は
あのお月さまでさえ、凍えてしまうのです。
吹雪の次の夜、もしも星が出ていたら、
もしもその夜が満月ならば
きっと見付けることができるでしょう。
月が飛ばされた跡を。
もっとも大吹雪の翌日が晴天で満月なんてことは
滅多にないでしょうけれど。
ひどい吹雪の晩は月も凍えて吹き飛ばされてしまうことを。
一年の半分を雪とともに過ごすような
寒い寒い街の大吹雪の夜は
あのお月さまでさえ、凍えてしまうのです。
吹雪の次の夜、もしも星が出ていたら、
もしもその夜が満月ならば
きっと見付けることができるでしょう。
月が飛ばされた跡を。
もっとも大吹雪の翌日が晴天で満月なんてことは
滅多にないでしょうけれど。
2003年1月29日水曜日
2003年1月28日火曜日
2003年1月27日月曜日
2003年1月26日日曜日
2003年1月25日土曜日
2003年1月24日金曜日
2003年1月23日木曜日
2003年1月22日水曜日
2003年1月20日月曜日
THERE IS NOTHING
旅から帰った友人はひどく疲れていた。
「どうだった?旅行」
「何もなかったよ」
彼は憔悴している、と言っていいくらいだった。
私は気にはなったが、それ以上何も語ろうとしない彼を追求はしなかったし、やがて忘れてしまった。
彼の憔悴の意味に気付いたのは八年後、彼の通夜の席だった。
そうか、あいつの旅行の行き先は八年後の未来だった……。
「何もなかったよ」彼の声が頭の中で繰り返された。
帰り道、ガス燈を思いっきり蹴った。
明日の朝、ガス燈に謝っておこう。
「どうだった?旅行」
「何もなかったよ」
彼は憔悴している、と言っていいくらいだった。
私は気にはなったが、それ以上何も語ろうとしない彼を追求はしなかったし、やがて忘れてしまった。
彼の憔悴の意味に気付いたのは八年後、彼の通夜の席だった。
そうか、あいつの旅行の行き先は八年後の未来だった……。
「何もなかったよ」彼の声が頭の中で繰り返された。
帰り道、ガス燈を思いっきり蹴った。
明日の朝、ガス燈に謝っておこう。
2003年1月18日土曜日
2003年1月17日金曜日
2003年1月16日木曜日
2003年1月15日水曜日
THE GIANT-BIRD
巨大な鳥が我が家を訪ねてきたのは日曜の午後だった。
家にはとても入らないので庭で話をした。
普段雑草だらけで手に余る庭に初めて感謝した。
巨大な鳥は、ここに来るまでに人を呼んでしまったらしく、外は野次馬だらけになっていた。
鳥はそれを気にして何度も「相済みません」とペコペコした。
巨大な鳥の用件は大したことではなかった。
だが、それは大仕事だし、すべてが済むには時間もかかる。
そして少しばかり気の毒だった。
だが断るわけにはいかない。
「わかりました」
家にはとても入らないので庭で話をした。
普段雑草だらけで手に余る庭に初めて感謝した。
巨大な鳥は、ここに来るまでに人を呼んでしまったらしく、外は野次馬だらけになっていた。
鳥はそれを気にして何度も「相済みません」とペコペコした。
巨大な鳥の用件は大したことではなかった。
だが、それは大仕事だし、すべてが済むには時間もかかる。
そして少しばかり気の毒だった。
だが断るわけにはいかない。
「わかりました」
2003年1月13日月曜日
2003年1月12日日曜日
2003年1月11日土曜日
どうして彼は喫煙家になったか?
お月さまは時々煙草を吸う。
煙草を吸う時のお月さまの表情は、なんだかはかなげで気になっていた。
「お月さまはどうして煙草を吸うようになったのですか?」
「はじめは憧れでした。
でも本格的に吸い始めた理由は他にあります」
「それはどういうことですか?」
「ここに来るには、この煙草が必要なのですよ」
お月さまはそれ以上語らなかった。
煙草を吸う時のお月さまの表情は、なんだかはかなげで気になっていた。
「お月さまはどうして煙草を吸うようになったのですか?」
「はじめは憧れでした。
でも本格的に吸い始めた理由は他にあります」
「それはどういうことですか?」
「ここに来るには、この煙草が必要なのですよ」
お月さまはそれ以上語らなかった。
2003年1月10日金曜日
はたしてビールびんの中に箒星がはいっていたか?
友人が置いていったビール瓶の始末に悩み、お月さまに相談した。
「箒星が入っているらしい、珍しいからやるよ、なんて言って置いていってしまったんです」
ただの空瓶にしか見えないそのビンを友人は大事そうに抱えてきたのだ。
お月さまは、ためつすがめつビンを覗き込み
「こりゃいかん。指名手配中の箒星ですよ」
「え……」
お月さまは私が驚く間もなく消えてしまった。
しばらくして戻ってきたお月さまは
「暴走星」
と言ってビンを返してくれた。ビンはやはり空だった。
珍しいビールが入っているかも、と期待してたのだが。
「箒星が入っているらしい、珍しいからやるよ、なんて言って置いていってしまったんです」
ただの空瓶にしか見えないそのビンを友人は大事そうに抱えてきたのだ。
お月さまは、ためつすがめつビンを覗き込み
「こりゃいかん。指名手配中の箒星ですよ」
「え……」
お月さまは私が驚く間もなく消えてしまった。
しばらくして戻ってきたお月さまは
「暴走星」
と言ってビンを返してくれた。ビンはやはり空だった。
珍しいビールが入っているかも、と期待してたのだが。
2003年1月8日水曜日
2003年1月6日月曜日
お月様が三角になった話
「トライアングル?」
「そう。トライアングル。今でも同級生にからかわれるんです」
私はお月さまに子供の頃合奏で失敗した話をした。
お月さまはトライアングルを知らないようだった。
「トライアングル……三角形……」
「そうです。三角形の金属の楽器で……」
お月さまは私の説明を聞いていなかった。
お月さまは「トライアングル……」と呟きながら自分も三角形になっていたのだ。
私が「あ!」と言ったときには元に戻って「秘密だよ」と笑った。
「そう。トライアングル。今でも同級生にからかわれるんです」
私はお月さまに子供の頃合奏で失敗した話をした。
お月さまはトライアングルを知らないようだった。
「トライアングル……三角形……」
「そうです。三角形の金属の楽器で……」
お月さまは私の説明を聞いていなかった。
お月さまは「トライアングル……」と呟きながら自分も三角形になっていたのだ。
私が「あ!」と言ったときには元に戻って「秘密だよ」と笑った。
2003年1月5日日曜日
2003年1月4日土曜日
2003年1月3日金曜日
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