六月某日、快晴。枇杷を踏んづけた。近くに大きな枇杷の木がある。毎年、実を付けるが食用ではないので果肉は少ない。だが踏むとちょっとギョッとするような感触があって、咄嗟に「ごめんなさい!」と言ってしまう。去年も言った。一昨年も言った気がする。そんなこんなで、何年も枇杷を食べていない。
2025年6月18日水曜日
2025年6月16日月曜日
暮らしの140字小説20
六月某日、雨。風邪を引いた。九ヶ月ぶりである。風邪というのは二種類ある。感染したという実感があるものと、ふらふらと体調を崩し、風邪になるもの。体温計がなぜかのっぺらぼうになって表示窓も押釦もない。「体温測ってください」と頼み脇の下に突っ込むと「37.2度」と言う。信用していいものか。
2025年6月11日水曜日
暮らしの140字小説19
六月某日、曇。早くも蒸し暑い。暑くなると洋服掛けには白いTシャツがずらりと並ぶ。同じものではない。袖なし、半袖、五分袖、七分袖と取り揃え、それらをその日の日差しや気温・湿度によって選び取るのである。去年買ったものはもうよれよれだが、昨夏の猛暑を共に乗り越えた仲である。着心地はよい。
2025年6月2日月曜日
暮らしの140字小説18
五月某日、雨。八百屋から帰ってきて、野菜たちを片付けていたら、買ったはずの長葱がないことに気が付いた。傘を差して、家を出る。幾らも歩かぬうちに見つかり、安堵する。駆け寄ると、雨に濡れた長葱は匂いを強く発していて泣いているようだった。長葱が鼻と目を刺激するので、一緒に泣いて帰った。
2025年5月25日日曜日
暮らしの140字小説17
五月某日、雨。夜中、急に豚汁を作る。ひと口食べたところでハタと気づく。このままでは熱くて冷蔵庫に入れられない。室温は二十五度、そのままにするのは危ない。盥に氷水を張り、鍋を浸し、団扇で扇いだ。深夜の所業に笑いが込み上げる。祖母の形見の舞扇が踊りに飛んできた。手伝いのつもりらしい。
2025年5月22日木曜日
暮らしの140字小説16
五月某日、曇。図書室で借りた分厚い本に絵画展の案内葉書が挟まっていた。小さくなった人物画や風景画、静物画も少し、行儀よく並んでいる。本職の画家たちではないのだろう、どれも生真面目な佇まいがある。そのまま栞として使うことにする。展覧会は銀座の画廊にて、会期は十年前の今日から一週間。(140字)
2025年5月19日月曜日
暮らしの140字小説15
五月某日、雨。数日前から始まったアパートの解体を眺める。ベランダからよく見えるが、前を通ったことは殆どない。重機の音が雨音も壊す。屋根が剥がされた建物に雨が降る。そのまま雨で腐って、朽ち果てるといい。あそこに棲んでいた生き物はどうしているのか。建物が朽ちたら、雑木林に戻るといい。(140字)