懸恋-keren-
超短編
2015年10月16日金曜日
かぼちゃの姫君
秋の風は心地よいのに、どこか淋しい。かぼちゃの姫君は、住まいであり、父であるかぼちゃ氏に問う。「冬の始まりはどこにあるの?」
父なるかぼちゃ氏は「答えはきっと、本の中にある」と、遠くを見る。姫君は父の本棚を見渡したけれど、姫君にはまだ少し難しい本ばかりだ。
キノコたちが「遊ぼうよ」と姫君を誘いに来る。「遊んでおいで」と、かぼちゃ氏は遠くを見る。
イラストレーション:へいじ
2015年10月12日月曜日
十月十二日 猿との遭遇
「さるサル猿!」
と、ウサギが叫ぶので、車は急ブレーキで止まった。貫禄十分の雄と思われる猿は、ノッシノッシと車の前を歩き、それから車の上を歩き、最後に車の下を歩いた。
車中は緊張で張り詰めていたが、猿は車に狼藉を働くことなく、去っていった。ただ、去るときに、もぐもぐと口が動いていたので、一つくらい車の部品を食べられてしまったかもしれない。
2015年10月6日火曜日
十月六日 秋の味覚
何度やってもコンビニのコピーがうまくいかない。斜めになったり、掠れたり。大事な書類なので、きちんとコピーできないのは困る。
コインはあと1枚。これが失敗したらおしまいだ。緊張しながら最後の硬貨を入れようとすると、ウサギがそれを邪魔して、何やら葉を突っ込もうとする。
「何してるの?!」
「さつまいもの葉っぱ。コピー機にも秋の味覚が必要」
コピー機はものすごく高画質な仕事をした。
2015年10月1日木曜日
十月一日 贅沢な秋の雨
アーモンドを齧りながら詩集を読む。なんて贅沢な雨の午後だ。
そう思ったのも束の間、ウサギはアーモンドを隠し始めた。リスに感化されたらしい。
2015年9月25日金曜日
九月二十五日 飴
「雨の日の朝は飴を舐めるんだ」とウサギが言う。ただのダジャレだろ?というと、「何にも知らないんだな」と冷たい目で見られた。ウサギが飴を舐めると、毛皮に防水効果がつくらしい。そんな馬鹿な! 飴を舐め終わったウサギにシャワーを浴びせたら、あら不思議。コロコロと水玉がウサギの身体を滑り落ちる。
私の髪の毛も飴を舐めたら防水効果がつくのかしらん。のど飴は残り2個だ。
2015年9月15日火曜日
moon babies
月の使いであるところの小さな人が、小さな小さな風船を持って、夜風を読む。
いや、風船ではない。風船に見えたそれは、よくよく見れば小さく幼い月たちである。
この小さな人は永くトランクケースで眠っていたが、小さな月たちが騒ぐので、満月に帰るための風を待っているのだった。
幼い月たちは、晩夏の夜風にうまく乗れるだろうか。
イラストレーション:へいじ
2015年9月14日月曜日
九月十四日 また、しゃぼん玉
公園に続く道。大きなしゃぼん玉が私の前を飛ぶので、ついて歩いた。
しゃぼん玉はちょうど頭くらいの大きさで、私の目の前を飛んでいる。いつもの道、いつもの景色が、しゃぼん玉を通してみるだけで、違う世界を歩いているような気分。ちょっと不安になって、時々キョロキョロまわりを見渡す。
もうすぐ公園に入るというところで、しゃぼん玉は唐突に墜落し、弾けた。私はしゃぼん玉が落ちて濡れた道を踏んでしまった。そして違う世界に落っこちたのだ。ここはしゃぼん玉の中の世界だって、私は知っている。
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