海綿は、吸い上げた海水を頭から噴き出す。
「この噴上げっぷりは、海底火山とよい勝負だ」と思っていることを、海の誰もが知らないふりをしている。
2012年1月19日木曜日
2012年1月17日火曜日
2012年1月10日火曜日
2012年1月8日日曜日
猿の言葉
山から降りて町で暮らしたその猿は、一部の人間により町を追放されることになった。
猿が唯一覚えた人語は、「猿が去る」というものだったので、申年の年末までは町に居住することを許された。
次の申年まで覚えていられるだろうか、と不安に思った猿だが、それをうまく表明できないまま町を去った。
猿が唯一覚えた人語は、「猿が去る」というものだったので、申年の年末までは町に居住することを許された。
次の申年まで覚えていられるだろうか、と不安に思った猿だが、それをうまく表明できないまま町を去った。
2012年1月3日火曜日
動物の帰郷本能
飼い主がほろっと手を緩めてしまったときに、犬は芳しい香りを嗅ぎつけて、無条件に走りだしてしまったのだ。
その香りの源は、巨大な花だった。犬はすぐに興味を失った。そういえば腹が減っている。
こんなに長距離を全力で走ったのは、生まれて初めてだ。
さて、ずいぶん遠くに来てしまったぞ、と犬は気づいたがどうしようもない。
幸い犬は飼い主の名を覚えていたので、訊いて回りながら帰ることにした。
「ヤマノウエ・ノボルの家を知りませんか」
と犬が訊く。
「おまえ、帰郷本能もないのか? 犬なのに。俺はどこにいても帰れるぜ」
と、ほとんどの犬が答える。
犬は犬としての己の能力のなさを知り、自信を失った。
そうこうしながら彷徨い歩いた。野犬として追い掛け回されたり、保健所に送られそうになりながら、一軒の家に迷い込んだ。
犬は、その家の人間にひどく歓迎された。そして、涙ながらに庭に通されたのだった。
庭では、犬の母が、息を引き取ろうとしている。
その香りの源は、巨大な花だった。犬はすぐに興味を失った。そういえば腹が減っている。
こんなに長距離を全力で走ったのは、生まれて初めてだ。
さて、ずいぶん遠くに来てしまったぞ、と犬は気づいたがどうしようもない。
幸い犬は飼い主の名を覚えていたので、訊いて回りながら帰ることにした。
「ヤマノウエ・ノボルの家を知りませんか」
と犬が訊く。
「おまえ、帰郷本能もないのか? 犬なのに。俺はどこにいても帰れるぜ」
と、ほとんどの犬が答える。
犬は犬としての己の能力のなさを知り、自信を失った。
そうこうしながら彷徨い歩いた。野犬として追い掛け回されたり、保健所に送られそうになりながら、一軒の家に迷い込んだ。
犬は、その家の人間にひどく歓迎された。そして、涙ながらに庭に通されたのだった。
庭では、犬の母が、息を引き取ろうとしている。
2011年12月27日火曜日
鳥の母性愛
鳥の母子は、意思を疎通し合うのだろうか。意思の疎通があれば、きっと雛は母に抗議しているであろう、とっくの昔に。
この鳥籠の中で繰り広げられる、母から子への、間断なき餌やり。
太った雛は時折、こちらに濁った目を向けて懇願する様子を見せるが、私の哀れみがそう思わせるだけで、実際のところ雛は何も思っていないのかもしれない。
鳥籠の扉を開け放ってやりたい衝動に駆られるが、扉を開けたところでこの肥満した小鳥は飛び立つことができないだろう。
そもそも、私自身が囚われの身なのだ。小さな窓の外では何が起きているのか、わからない。
母鳥は、せっせと雛に餌を与え続けている。私はそれを飽きずに見ている。他に見るものがない。
この鳥籠の中で繰り広げられる、母から子への、間断なき餌やり。
太った雛は時折、こちらに濁った目を向けて懇願する様子を見せるが、私の哀れみがそう思わせるだけで、実際のところ雛は何も思っていないのかもしれない。
鳥籠の扉を開け放ってやりたい衝動に駆られるが、扉を開けたところでこの肥満した小鳥は飛び立つことができないだろう。
そもそも、私自身が囚われの身なのだ。小さな窓の外では何が起きているのか、わからない。
母鳥は、せっせと雛に餌を与え続けている。私はそれを飽きずに見ている。他に見るものがない。
2011年12月25日日曜日
薄明のメロディー
お酒を飲むと、ふわふわとよい心持ちになる人は多いと思うが、本当にふわふわと宙を歩く人は、なかなかいないものだ。
私の友人のバカリーは、コルネット吹きのやさしい男だ。いつもにこにことしているから、年寄りや子供や猫によく声を掛けられる。
彼も私も酒が好きで、機会をみては二人で飲みに出掛ける。しゃべるのは私ばかりで、バカリーはもっぱら聞き役だ。
もちろんたまにはバカリーも話をする。いつも決まって、尻尾を切られた黒猫と女の子の思い出話だ。女の子は、もうすっかりきれいな娘になっているらしい。
すっかり語り合って薄明、彼は顔を赤く染め(それは酔った男というよりも、恥らう少年のようなのだ)、「今夜は素敵だった。ありがとな」と言って、そのまま空中散歩に出かけてしまう。
「おーい、バカリー、落っこちるなよ!」
私は空に叫んで、千鳥足で家に向かう。
だんだんと明るくなる町を、バカリーの奏でるコルネットが祝うのだ。
コルネット吹きのチョット・バカリーは、四千四秒物語に出てきます。
私の友人のバカリーは、コルネット吹きのやさしい男だ。いつもにこにことしているから、年寄りや子供や猫によく声を掛けられる。
彼も私も酒が好きで、機会をみては二人で飲みに出掛ける。しゃべるのは私ばかりで、バカリーはもっぱら聞き役だ。
もちろんたまにはバカリーも話をする。いつも決まって、尻尾を切られた黒猫と女の子の思い出話だ。女の子は、もうすっかりきれいな娘になっているらしい。
すっかり語り合って薄明、彼は顔を赤く染め(それは酔った男というよりも、恥らう少年のようなのだ)、「今夜は素敵だった。ありがとな」と言って、そのまま空中散歩に出かけてしまう。
「おーい、バカリー、落っこちるなよ!」
私は空に叫んで、千鳥足で家に向かう。
だんだんと明るくなる町を、バカリーの奏でるコルネットが祝うのだ。
コルネット吹きのチョット・バカリーは、四千四秒物語に出てきます。
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