2009年6月23日火曜日

営み

紐のない運動靴、ヒトデの死骸、割れたワインの瓶、海草の絡まった魚網、ラブレターの切れ端。
恋人が海から拾ってきたものたちを、僕はひとつひとつ標本にする。日付をつけて。
罅だらけの浮、滑らかな流木、ふやけた聖書、大量の貝殻。
僕が標本にしたものたちを、恋人は標本をひとつひとつ海に捨てに行く。波にそっと浮かべて。
指を咥えたルンペンが恋人の姿を浜辺から眺めているのを、僕は気にしない。

(187字)

2009年6月22日月曜日

生まれる

こんなに居心地がよいところを出なくちゃいけないなんて、世の中理不尽なんだな。
僕はどういうわけか、瓶をひとつ持っている。大きな瓶だから、お母さんは大変だと思うけれど、僕は瓶にここの水を入れて外に出ようと思う。
外に出てからも、お母さんの海を大事に大事に飲むんだ。

(129字)

もっといろいろ描写をしたかったはずなんだけど、なんか、こう、めんどくさくなっちゃった。(ダメ)

……蒸しますなぁ。頭も身体もかったるくっていけません。
どろどろと溶けて昏睡したい(?)
クエン酸かレモン汁を入れた水を飲んで、水分補給しとる。

2009年6月20日土曜日

霧の中

向こうの山が朧に白い。霧が深いのに妙に空が明るいのは、月が丸いからだろう。
霧は尋常じゃないほど深い。服は絞れそうなほどぐっしょりと重たい。心なしか息をするのも苦しい。
今、此処は水中でもなく、空中でもないのだ、きっと。
いくら明るいとはいえ山道の足元は暗い。一歩先の地面はぽっかりと穴が空いているやもしれぬ、そんな恐怖を打ち消し打ち消し、歩を進める。
どこに向かっているのか、わからない。けれども隣には君がいる。それは望んだことだから、幸せなことだ。
君は何も言わずに、この湿気がこれ以上なく飽和したこの道を、とぼとぼと歩いている。
せっかく二人で歩いているのだから、と少し強引に手を取った。握り返す力に安堵しながらも、そういえば手を繋いで歩くのは初めててだな、と気が付く。
また少し霧が重くなった。

(344字)

2009年6月18日木曜日

六月十八日 初めて見上げた空

初めて見る空の色は覚えていない。
希望も夢も見ないと決めた。
けれど、世の中はただただ鮮やかに、目まぐるしい。

(53字)

2009年6月16日火曜日

パイロットは大変だ

海中を飛ぶ飛行機は大変だ。エイだのサメだのマグロだのイルカだのが、なぜだか飛行機に対抗するから、パイロットの気苦労は絶えない。
飛行機というものが、もともとは空を飛ぶヤツだと知ったイルカだのエイだのマグロだのサメは、ついに空に進出して雲のまにまにぐんぐん泳いでいるから、やっぱりパイロットは気が気じゃない。

(152字)

『「おまえだ!」とカピバラはいった』斉藤洋 を読んだ勢い。
マンタが高層マンションの窓をすり抜けて少年を訪ねる話です。(乱暴な説明)
にしても、小学校中学年くらいから読める本で、そこはかとなく「スケベオヤジ心」が滲みでているんだけど(笑)。

2009年6月15日月曜日

芳しい天気

昔はしとしと降るものだった、梅雨の雨は。何だってこんなタチの悪いどしゃ降りになるんだろう。
雨が降る直前の埃っぽくて湿った匂いは、決して嫌いではなかった。九歳の時、それを詩に書いたくらいだ。
以来、僕は天気を読む時は鼻をひくひくさせるようになった。あの詩を書いたときの気分をいつでも思い出したいから。
太陽の匂いも大好きだけれど、それは子供の頃と変わらない。
あの、梅雨の雨の前の匂いは、もう四年も嗅いでいない。

(202字)

2009年6月14日日曜日

珊瑚礁の向こう側

人工珊瑚礁の海辺で、母さんは僕を産んだという。
「それはそれは神秘的な光景だったさ。満月の夜でな、人工珊瑚も産卵していた。母さんは、とても苦しんでいたけれど、とても綺麗だった」
父さんは、砂浜から僕が産まれるのを眺めていたそうだ。
けれど、母さんは僕を産んで、最初のおっぱいだけを飲ませた後、海に帰ってしまった。人工珊瑚礁よりもっと沖の深い深い海に。
どうして僕を置いていったのだろう。
父さんは、相変わらず母さんが好きで、うっとりと同じ思い出話をする。
逢えないのに、寂しくないの? 置いていかれて、怒っていないの?
何度も何度も訊いたけれど、答えはいつも同じ。
「だって母さんは海の人だから。お前もいつか、海の人と愛し合うのさ」
だけど、僕は海が怖い。もうすぐ十二歳になるというのに。
人工珊瑚は整然としすぎている。この海で僕は泳ぐことができない。

(365字)